相続登記義務化!?

 相続・・・親族に方が亡くなって悲しんでいる最中であっても、期限を切って迫ってくる問題です。義理も人情もありゃしないっ!
 って、まぁ、亡くなられた方の財産を分ける作業は必要なことですし・・・感情部分は置いておくとして・・・。
 と、今回は相続(登記関係を中心に)に関する最近の変更事項について書いていきたいと思います。相続全体の流れについては・・・どっか機会を見つけて書いていけたらいいなぁ。

①相続登記の義務化って?
②戸籍謄本の広域交付制度って?
③相続土地国庫帰属制度って?
④その他、最近変更になったことってあるの?

①相続登記の義務化って?

 今年の4月1日から相続登記の義務化が施行されます。どのようなものかと言うと、相続で土地・建物などの不動産を相続した人はちゃんと登記してねー、という話になります。具体的にはどのような制度かと言うと・・・

・相続(遺贈も含む)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をする必要がある。
・遺産分割が成立した場合は、これによって不動産を取得した相続人は遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をする必要がある。


と言うものです。これに正当な理由なく違反した場合、10万円以下の過料(行政ペナルティ)が課せられます。前科が付くわけではありませんが、なかなか厳しい制度となっています。また、この正当な理由というのは『相続人が極めて多数となり、かつ、戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する』、『遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われていて、相続不動産の帰属主体が明らかでない』、『相続登記の義務を負う人が重病その他これに準ずる事情がある』、『相続登記義務者がDV等で避難状態にある』、『お金が無くて登記費用が払えない』などとなっており、個別判断になるとされています。
 この今年4月1日からの施行という点ですが、それ以前に相続が行われた場合においても、対象となっています。今年4月1日以降に相続が始まった場合は、対象の日から3年以内、今年4月1日以前に相続があった場合は今年の4月1日から数えて3年以内・・・即ち令和9年の4月1日までに相続登記を行う必要があります。
 こわーい過料ですが、これはどのような流れで過料が課せられるのでしょう。
その流れとしては・・・

1.登記官が義務違反を把握、義務違反者に登記を行う様に催告(催告書で)します。
2.催告の期間内に登記が無い場合、裁判所に対して通知します(登記官が)。
3.裁判所で要件に該当するかどうかを判断、過料を科す旨の裁判が行われます。


となっており、いきなり過料が課せられる訳ではありませんので、一安心ではあります。ただ、催告を無視すると過料が課せられそうですので、最悪でも催告書が届いた場合は、速やかに登記を行うべきだと思います(というか、その前に登記するのがいいんですけどね・・・。)。
 
 じゃぁ、まだまだ誰が相続するか決まってないとか、係争中とかの時はどのようにするのでしょうか?これには『相続人申請登記』というものがあります。この相続人申請登記には『公示力(第三者に対して権利を主張することができる力)』はないのですが、不動産登記を相続が決まるまで、もしくは係争が終わるまで登記を待ってくれることになります。ですので、遺産が分割できたら、3年以内に相続登記を行う必要があります。ちなみに、この状態(相続人申請登記)の時は対象不動産を売ったり、抵当に入れる事はできませんので注意です。また、相続人申請登記によって申請義務を履行したとみなされる相続人はその申告を行った人のみとなりますので、単独で行うのではなく、複数人相続人がいる場合は連名で行ったほうが良いのではないかと思います。

 ちなみにこの相続登記ですが、どの程度お金が掛かるのかと言うと、相続人の場合は評価額の0.4%となっています、仮に1000万円の不動産を相続によって取得した場合は、4万円の登録免許税を印紙で支払う必要があります。ここで注意が必要なのは相続人以外の人が遺贈で不動産を取得した場合、2%となり、上記1000万円の不動産を取得した場合、20万円の登録免許税が掛かることになります。また、司法書士の先生などにお願いする場合、別途お金が掛かっちゃいますので、お願いするかどうか悩みどころですね。

 この義務化ってちょっとヤだなぁと思うかもしれませんが、次世代・次々世代の相続等が行われるときに土地の所有者があやふやな場合、かなり苦労することになります。特にお子さん、お孫さん、ひ孫さん・・・と代が進むにつれ、権利が細分化されちゃって収集が付かないという事も考えられます。まぁ、これれにおいては共有相続もあまり私的にはお勧めできないのだけど・・・。共有しちゃうと、共有1代目は何とかなりそうなんだけど、2代目・3代目とかなってくると、連絡も取らないだろうし、処分とか何かとめんどくさい事になっちゃいそうです。
 それに加え、東北大震災の復興時に土地の所有者が分からず、難儀したという話も聞いています。復興するのに誰に許可を取ればいいのか・・・速やかな復興の為にも、しっかりと登記し復興に協力できる体制を整えたいものですね。
 また、この誰が所有者か確定しないことによって、その不動産に対する責任の所在があやふやになり、周辺環境に悪影響を与える可能性も高くなりそうです。管理が行き届かない不動産は周辺の住民の皆様が迷惑しちゃいますので、そういう面においてもしっかりと登記し、責任を持って管理を行う必要がありそうです。

②戸籍謄本の広域交付制度って?

 次に戸籍謄本の広域交付です。これは今年3月からの施行となっており、すでに始まっている制度となります。どのような制度かという前に、遺産分割の前準備として、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本をすべて集める必要があります。これは相続人の確定(ひょっとしたら隠し子がいるかもしれません><;)の為に必要な行為となるのですが、本籍地が移るたびに・・・その本籍地があった市区町村に戸籍謄本を請求する必要がありました。本籍地のある市区町村に足を運んで集めるか(故人を偲ぶにはいいのかもしれませんが・・・すっごい時間がかかります。)、郵送または事前申請で集めていたのですが・・・これがなかなかにめんどい。そこで、どこからでも亡くなった方の戸籍謄本を一括して集める事ができるようになりました。これは・・・なかなかに便利そうです。具体的には近くの市区町村の役場(市役所など)で申し込むのですが・・・いくつか注意点があります。

注意点1 直接請求が必要です。
 この広域交付制度を利用するにあたり、郵送や事前申請などはできません。必ず、窓口に出向いて請求する必要があります。

注意点2 一部の戸籍は対象外となっています。
 コンピューター化されていない一部の戸籍・除籍謄本は広域交付の対象外となっており、一部事項証明書(抄本)や個人事項証明書・戸籍の附票も請求できません。まぁ、電子化されていない戸籍については市区町村も行う様に進めている様ですが、まだ対応できていない所も多少あるようです。これらにおいては別途取り寄せる必要がありそうです。

注意点3 代理人による請求はできません。
 相続関係においては複雑な事もあり、司法書士さんや弁護士さんにお願いする場合も多いと思います。この場合、委任状等をお渡ししても、士業の方の名義では広域交付制度は利用できません。あくまでも本人が申請することになります。まぁ、士業の方々は慣れたものでしょうから、郵送でバンバン取ってくれる気もするのですが・・・。また、請求する場合、顔写真付きの本人確認証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど)が必要になりますので、忘れないように持っていきましょう。

注意点4 結構、請求できる親族の範囲が狭いです。
 この制度は本人ないしは親族が利用できるのですが(今回は相続のお話なので、本人はありませんが、他の利用用途の場合は、本人が利用することもあり得ます。)、その範囲が結構狭いです。範囲としては・・・本人、配偶者、直系尊属(父母・祖父母など)、直系卑属(子・孫など)となっており、兄弟姉妹は入っていませんので注意です。
 また、配偶者の場合はちょっと微妙で、婚姻後の戸籍謄本に限られる自治体がある可能性があります(鳥栖市は婚姻前の戸籍謄本も出せるとのことでした。)。ですので、婚姻前の戸籍謄本を請求する場合は本籍地があった市区町村へ確認する必要がありそうです。うーん、これはなんかしっくりこない感じかなぁ。ちゃんと出生からの請求を認めてあげてもよさそうな気がするのに・・・。まぁ、まだ始まったばかりの制度だから、そのうち統一した見解が出るかもしれませんね。
 これについては子供がいる場合は子供に頼んじゃった方が早いかもしれませんね。委任では取れませんが、直系卑属に当りますので、本人名義での請求ができます。

 相続時には大きな負担となる戸籍の取得ですが、この制度を使うとかなーり楽になりそうな感じがします。こんな明るい口調で言うのは何ですが、もしもっ!という時は、利用しない手はないと思います。

③相続土地国庫帰属制度って?

 これはちょっと前からある制度で去年の4月27日からの開始となっています。
 どのような制度かと言うと、相続で土地を取得したものの・・・こんなのいらなーいって時に国に引き取ってもらおう・・・という制度です。
 それなら相続放棄も視野に入りますが、それだと土地以外の相続財産も放棄してしまうことになりますし、結局その利用価値の少ない土地は相続放棄してない人が相続する事にもなります。ですので、望まぬ土地を相続してしまった場合にはいい制度だと・・・一見思われますが、中身を見ると一筋縄ではいかない感じもします。すこーしだけ詳しく見てみると・・・

 まず、申請できないケースが定められています。例示として・・・
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・土壌汚染がされている土地
・境界が明らかでない土地・所有権のぞ存否や範囲について争いがある土地

などが挙げられています。まぁ、ごもっともという例示が並んでいますが、建物は取り壊しに結構お金かかりますし、悩ましい所ですね。

 次に承認を受ける事ができないケースが定められており、例示では・・・
・一定の勾配・高さの崖があり、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上・地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分にに当って過分な費用・労力がかかる土地

となっています。これを見てみると、特に最後の例示においては、どの程度までが過分であるか分からないものの、ある程度処分がしやすい土地となってくるのではないかなぁと思われます。それなら、通常で売っても買い手が出る可能性が高いのではないかとも思ったり思わなかったりもしてしまいます。
 
 また、この制度を利用するにあたり、審査があるのですが、その審査費用が土地1筆(登記簿手一個の土地とされる区画)に当り14000円を収入印紙で、払う必要があり、承認されない場合でも戻ってくることはありません。
 それに加え、承認されれば無料で引き取ってもらえるのかと言えば、そうではありません。管理料が掛かることになります。どれくらいかと言えば。『10年分の土地管理費用相当分』となっています。法務省の例示では下の表の様になっており、面積に比例して1㎡単位の負担金は少なくなるようです。

                                                法務省『相続土地国庫帰属制度の概要』より

 表を見る限り、結構なお値段が掛かりそうだなぁ、と思われます。申請する場合は、ある程度のお金が掛かることを理解して申請する必要がありそうです。

 制度全般を眺めた限り、申請できないケースは理解できるものが多いのですが、不承認のケースにおいてはどの程度までが承認されるのか・・・非常に気になるところです。売却可能であれば、わざわざお金を払ってまで国庫帰属させる必要もなさそうですし・・・という事は、遠方で管理できない土地などを相続した場合、まずは売却を検討し、どうにもならない場合は国庫帰属制度を利用する感じになるのではないかと思います。また、相続によって共有所有となった場合は、共有者全員で申し込む必要がありますので、よく協議してから申し込む必要がありそうです。

④その他、最近変更になったことってあるの?

 その他登記関連でちょっと昔に変った制度や近い未来に変る制度で注意が必要なものを2点書いていきたいと思います。

1.法定相続情報一覧図って便利だよ?
2.登記名義人の住所変更の申請も義務化になっちゃいます・・・


1.法定相続情報一覧図って便利だよ?
 これはちょっと前(平成29年5月29日)から始まってる制度なのですが、便利な制度ですので、紹介しておきますね。
 これは相続時の各種手続きにおいて戸籍謄本の束(亡くなった方や相続人の方の分)を要求される場合(相続人の範囲等を確認するため)が非常に多くあります。その度に戸籍謄本の束を受付に持っていく必要があったのですが、法務局でこの『法廷相続情報一覧図』を発行してもらうことにより、戸籍謄本の束の代わりに法務局が発行した『法廷相続情報一覧図』を1枚持っていくだけでOKになります。利用範囲としては『被相続人の不動産の名義変更』や『遺族年金や未支給年金の手続き』、『銀行の預貯金の払い出しや名義変更』など、結構幅広く使え、活用すると手続きの簡素化に繋がります。
 必要書類としては亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍謄本・除票、相続人の戸籍謄抄本、申出人の氏名・住所が確認できるもの(マイナンバーカードや免許証など)、法定相続人一覧図(亡くなった方の相続人を表わす家系図みたいな図)、申込書となります。即ち、法務局で相続人の確認をしてもらって、確認が終わったというお墨付きの法定相続情報一覧図を出してもらうことにより、他の機関で代用ができる形になるのですね。ですので、法務局で1回作ってしまえば、後は一覧図で他の機関も認めてくれる形になります。ちなみに法定相続人一覧図はエクセルなどで作ることができ、法務局にひな形がありますので、下のような相続関係図を書いて、法務局に持っていく事になります。

                            法務局『法定相続情報証明制度について』より

また、法務局から頂ける『法定相続情報一覧図』は下のような様式のものとなります。

                           法務局『法定相続譲歩証明制度について』より

 この『法定相続情報一覧図』においては無料で必要な分、法務局で作ってもらえますので、作る時は面倒かもしれませんが、その後の手続きの簡素化を考えると、作らない手はないと思います。

2.登記名義人の住所変更の手続きも義務化になっちゃいます・・・
 これはもうちょっと先の話になってて、令和8年4月からとなっています。そして、相続に限らないのですが、登記の名義人が住所変更を行った場合、住所変更があってから2年以内に登記簿の住所変更をしなくてはならないようになっちゃいます。そして、罰則も決まっており、5万円以下の過料となっていますので、住所変更した場合は、忘れずに行う様にしちゃいましょう。
 この登記簿の住所変更自体はしなくても本人にはあまり影響がなく、罰則もありませんでしたので、そのままほったらかしになる場合が多く、住所変更登記をしていない場合も多々見られていました。まぁ、そんなに利益も不利益も出ないなら、わざわざ法務局行って変更するのもめんどくさいですものね。ただ、これを行わないと・・・いざ、災害等の有事があった場合に連絡がつかなくなって困ることになります。
 住所変更の度に法務局で手続するのはめんどいですよね。そこで、ちょっと便利なシステムが導入される予定となっています。それは、事前に法務局に氏名・住所・生年月日等の『検索用情報』の提供を行い、申し出を行うことにより、定期的に登記官が職権で住所変更登記をしてくれるというシステムです。これは住民基本台帳から現住所を照会し、登記名義人の氏名、住所等の異動情報を取得し、変更があった場合、登記名義人に変更登記を行う事の確認を行い、その了解を得て変更するというものです。まぁ、私とかめんどくさがりだから、絶対登録するだろうなぁ(不動産持ってないけど><;
 と・・・義務化とそれに対応した便利機能がそう遠くない未来に行われるようです。


 今回は相続時における不動産を中心とした登記関係のお話を書かせていただきました。相続は故人を悼む暇を与えずやってきます。弁護士さん・司法書士さんなどの専門家に頼むのも一つの手だと思いますが、どのような制度・罰則があり、簡素化が図れるかをしっかりと考え、いざという時に備えていたいものですね。そうすると、良いか悪いかはともかく・・・個人を悼む時間も取れるかもです。

最後に、今回の変更点に関連するリンクを置いておきますね。
相続登記の義務化     ・・・法務省『不動産を相続した方へ』
戸籍謄本の広域交付制度  ・・・
法務省『戸籍法の一部改正する法律について』
相続土地国庫帰属制度   ・・・
法務省『相続土地国庫帰属制度について』
法定相続情報一覧図    ・・・
法務局『法定相続情報証明制度の具体的な手続きについて』
登記名義人の住所変更義務化・・・
法務省『令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント』
(特設ページではありませんが、上の情報と共に記載されています。)

今回も乱筆乱文失礼しましたっ。