2024年問題・・・ドライバーさん編

 最後に自動車運転業務の猶予終了後の取扱いですが、36協定の特別条項を結んだ場合、年間の時間外労働の時間が960時間(休日労働は含みません。)までとなります。また、月間の時間外労働・休日労働の上限である100時間未満、2~6か月平均での80時間以内という制限は付きません。それに加え、45時間を超える(特別条項発動)の回数制限の年6回という制限もつきません。猶予終了ではあるものの、まだ、通常の36協定(特別条項付き)と比べると緩めの規制となっています。
 と・・・ここで話を終わらせてもなんですので、トラック運転手さん、バス運転手さん、タクシー運転手さんそれぞれに若干違った『改善基準告示』というものがあります。これはそれぞれの業界でのドライバーさんの拘束時間などの改善の基準を示したもので、罰則はありませんが指導や行政処分の対象となる場合があります。今回の猶予終了に伴って、改善基準告示の内容も変更になりましたので、そちらの概要を見ていこうと思います。また、その後に蛇足として私の無い頭で考えた課題なども書いていこうと思います。

①トラック運転手さんの猶予終了後における改善基準告示
②バス運転手さんの猶予終了後における改善基準告示
③タクシー運転手さんの猶予終了後における改善基準告示
④トラック運転手さんの課題
⑤バス運転手さんの課題
⑥タクシー運転手さんの課題

①トラック運転手さんの猶予終了後における改善基準告示

 トラック運転業務における猶予終了後の改善基準告示の基本は下図のようになります。

                                   厚生労働省『トラック運転者の改善基準告示』より

 まず、年間における拘束時間は現行の3516時間から3300時間、1か月の拘束時間は293時間(320時間)から284時間(310時間)となります。これは労使協定を過半数労働組合(これがない場合は過半数を代表する労働者)と結んだ場合は年間6か月を限度に年3400時間を超えない範囲で月310時間まで延長することができます。ただし、月284時間を超える月の連続は3か月までとし、時間外、休日労働は100時間未満に収まるように努める必要があります。
 次に1日の休息時間(使用者の拘束を受けず、疲労の回復を図ると共に、睡眠時間を含むドライバーさんの生活時間として自由に過ごせる時間)は従来8時間であったものが『継続11時間を基本として最低継続9時間以上』となりました。これには拘束時間の上限も決まっており、『始業から13時間以内を基本とし、延長する場合においても15時間が限度』となります。この上限においては14時間を超える回数をできるだけ抑える努力を行い、目安として週2回までとなっています。また、週の全体を宿泊を伴う長距離輸送(1の運行が450Km以上)の場合は、1週において2回までに限り、1日の拘束時間を16時間に延長することができます(これに合わせ、休息時間は継続8時間となりますが、その運航終了後、継続12時間以上の休息時間が必要です。)。
 1日の拘束時間を考える場合の注意点として、始業から始業の間が24時間内場合、1日の拘束時間をダブらせる必要がある事です。下の例で例えると・・・

ある2日間の業務時間の例・・・
8時始業 → 21時終業 → 休息時間 → 6時始業 →19時終業
   13時間拘束     
 9時間休息     13時間拘束

 この場合、1日目の拘束時間は13時間の様に見えますが・・・8時の始業から24時間は翌日8時ですので、2日目の6時~8時の2時間に関しては1日目の拘束時間に含めて考えます。だからと言って、2日目の拘束時間にカウントしなくていいのかと言うと・・・これもカウントし、ダブルカウントすることになります。従って、1日目の拘束時間は13時間+翌日の2時間で『15時間』、2日目の拘束時間はそのまま『13時間』という事になります。変則的なシフトでスケジュールを組む場合は注意が必要ですね。

 また、運転時間にも『2日平均』と『2週間における週平均』において制限が入ります。まず、2日平均での運転時間ですが、これは前後する2日平均で9時間以内に抑える必要があります。

                        厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』より

 この上図の特定日の運転時間が適正かどうか考える場合、前日と翌日のそれぞれの運転時間を平均し、両方が9時間を超えていると改善基準告示違反となります。

仮に前日が10時間、当日が9時間、翌日が8時間運転の場合・・・
前日との平均   (10時間+9時間)÷2=9.5時間
翌日との平均    (9時間+8時間)÷2=8.5時間


となり、前日との平均は9.5時間と9時間を超えてしまっていますが、翌日との平均は8.5時間と9時間以内で収まっています。この状態は違反とならず大丈夫なのですが、仮に翌日との平均が9時間を超えた場合、違反となってしまいます。
 次に2週間平均における週平均の運転時間ですが、特定の日を基準として2週間ごとに区切り、その2週間ごとに計算し、週平均44時間が限度となります。イメージとしては下の図のような感じです。

                     厚生労働省『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』より

この図において③のみが平均45時間となり、改善基準告示違反となります。

 次に連続して運転できる時間ですが、原則的には4時間までとなっており、4時間運転したら30分の休憩を取る必要があります。この30分の休憩ですが、10分以上の休憩であれば分割して取る事ができますが、10分未満だと休憩と認められませんので、注意が必要です。
 また、特例としてサービスエリアやパーキングエリアなどが満車で駐車もしくは停車できない場合は、30分延長され、4時間30分までの連続運転が認められています。まぁ、4時間きっちり走ることは無理だと思いますので、運行計画を立てる場合は、無理のない運航計画を立てるように心掛ける必要があると思われます。

 では、事故渋滞や災害、車両の故障等・・・予期できない事象に遭遇した場合はどのような扱いになるのでしょう。この時間は1日の拘束時間、運転時間(2日平均)、連続運転時間からその対応時間を除くことができます。また、この場合、勤務終了後、通常通りの休憩時間(継続11時間を基本とし、継続9時間を下回らない)を取る必要があります。ちなみに平常時に頻発し、発生が予測できる渋滞等は該当しませんので注意が必要です。この予期できない事象に対応する時間が認められる為には『運転日の記録・対応場所・事由・所用時間などの記録』と『客観的な資料(修理証明書や日本道路交通センターの交通情報の写しなど)』を保存しておく必要があります。

 最後に特例としていくつかの例外があります。まず、『分割休息』ですが、これは勤務終了後継続9時間以上の休息を取る事が困難な場合に、全勤務回数の1/2を限度に休息を分割して取る事ができます。ただし、分割回数は2分割ないし3分割とし、どちらにおいても3時間以上の連続した休息時間、そして2分割の場合は休息時間の合計が10時間以上、3分割の場合は12時間以上にしなくてはなりません。

 また、1台のトラックに2人が乗り込む場合、トラック内に体を伸ばして休息することができる施設がある場合は、拘束時間を20時間まで延長し、休息時間を4時間まで短縮することができます。この例外として、一定要件以上のベッドを備え付けている場合は拘束時間を24時間までに延長することも可能となっています。

 次に隔日勤務が業務の必要上やむを得ない場合ですが、当分の間ではありますが、2暦日の拘束時間が21時間を越えず、かつ、勤務終了後継続20時間以上の休息を取る事を条件に、隔日勤務を行うことができます。感覚的には2日で1サイクルになると言った感じでしょうか。これについては事務所の仮眠施設で4時間以上仮眠をとる場合は、2週間に3回を限度に拘束時間を24時間へ延長する事ができます。ただし、2週間における総拘束時間は126時間までとなっています。

 運航にフェリー乗船が含まれる場合の取扱いですが、この時間は基本的に休息時間として取り扱います。この時間が9時間を超えた場合は、下船後から次の勤務が開始される事になります。9時間に満たない場合は乗船時間を9時間から差し引いた時間を休息時間として取る必要がありますが、その時間は下船後の運転時間の半分以上が必要です。つまり・・・

6時間運転 → フェリー8時間 → 4時間運転

の場合、フェリー乗船中の8時間は休息時間として扱われますので、『9時間-8時間』の1時間を4時間運転後に休息時間とするはずですが、フェリー下船後4時間運転していますので、2時間の休息時間が必要となります。

 後、休日の扱いですが、休息時間に24時間を加算した時間となっており、通常勤務では『9時間+24時間で33時間』、隔日勤務の場合は『20時間+24時間の44時間』以上となります。

②バス運転手さんの猶予終了後における改善基準告示

 次にバスの運転手さんの猶予終了後における改善基準告示です。トラックの運転手さんとかなり似ていますが、若干時間等が異なります。

                                      厚生労働省『バス運転者の改善基準告示』より

 今回の見直しにより1年間の拘束時間が3380時間から3300時間、4週間での1週間平均拘束時間65時間(71.5時間)から月の拘束時間281時間(294時間)1日の休息時間が『継続8時間』から『継続11時間を基本とし、9時間下限』へと変更になっています。
 また、1年、1か月における拘束時間においては『52週での拘束時間3300時間、4週での1週間平均拘束時間65時間』との選択制となっています。
 貸切バス乗務者(貸切バス・高速バス・乗り合いバスの乗務員さん)は例外として、労使協定を結ぶことにより、1年の内、6か月を超えない範囲で1年の総拘束時間3400時間を超えない範囲で、1か月の拘束時間を294時間まで延長することができます(ただし、連続して281時間を超える事ができるのは4か月まで。)。同様に52週を選択した場合においても、3400時間を超えない範囲で24週までは68時間まで延長することができます(ただし、65時間を超える週の連続は16週まで。)。

 1日の拘束時間はトラックの運転手さんと同様、13時間以内を基本とし、延長しても15時間までとなっています。14時間を超える回数の目安についても週3回までとなっており、また、1日の拘束時間の考え方の注意点もトラック運転手さんと同様になっています。休息時間においても11時間を基本として最低9時間となっており、この辺もトラックの運転手さんと同じですね。

 次に2日間における1日平均運転時間ですが、これはトラックと同様、前後する日との平均においてどちらも9時間を超えない事となっています。これに加え、4週間における1週平均の運転時間も制限があり、4週間における1週平均の運転時間ですが、週平均40時間となっています。これはトラックの運転手さんは『2週間における1週平均が44時間』でしたので、若干時間が違います。また、これにおいては『貸切バス等乗務者』においては労使協定を結ぶことにより、52週の内16週までは、52週での運転時間が2080時間を超えない範囲で4週平均の1週間当たりの運転時間を44時間まで延長することができます。イメージとしては下の図のようになります。①は通常の取扱い、②は労使協定を結んだ取扱い、③は改善基準告示違反の例となります。

                             厚生労働省『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』より

 また、連続運転時間は4時間までとなっており、これもトラックの運転手さんと同様になっています。休憩を30分挟まないといけない点、10分以上の休憩に分割することができる点も同様です。ただ、軽微な移動(消防車・救急車等の緊急車両の通行に伴い、また、他の車両の通行の妨げを回避するため、駐車・停車した自動車を予定された位置から移動させること。)を行った場合は、運転時間から除くことができますが、30分を限度とします。これにおいては休憩中に『軽微な移動』を行た場合は休憩時間から除かれますので、注意が必要です。この『軽微な移動』を行った場合は、『場所・理由・時間数』を運転日報等にしっかりと書いておく必要があります。

 予期しえない事象への対応時間の取扱いもトラックの運転手さんと同じで、1日の拘束時間、2日平均の拘束時間、連続運転時間から除くことができます(その他の拘束時間等の規定からは取り除くことはできません。)。また、予期しえない事象の種類、記録保存の注意点も同様となっています。

 分割休息についてはトラックの運転手さんと若干違います。業務の必要上、勤務終了後継続した9時間以上の休息が取れない場合、当分の間、一定期間(1か月が限度)における全勤務回数の1/2を限度に休息時間を拘束時間の途中及び拘束時間の経過直後に分割して取る事ができる事になっており、ここまでは一緒なのですが、分割回数は2分割までとなっています。この時、1回あたり継続4時間以上、合計11時間以上の休息時間が必要です(トラックの運転手さんにおいては分割回数は3回でも可で、継続3時間以上の休息時間でした。)。

 また、2人乗務においても若干だけ要件が異なります。2人乗務の場合は専用のリクライニングシートがある場合は拘束時間を19時間、休息時間を5時間とする事ができます。また、車両内ベッドが設けられているか、リクライニング可能な専用席がカーテン等で仕切られている場合、拘束時間20時間、休息時間4時間とする特例もあります。

 隔日勤務においてはトラックの運転手さんと同様で、当分の間ですが、2暦日の拘束時間が21時間を越えず、かつ、勤務終了後、継続20時間以上の休息時間を取る事を条件に、隔日勤務を行うことができます。
 例外も同様で、事業場内の仮眠施設又は使用者が確保した同様の施設で、夜間に4時間の仮眠を取った場合は24時間に拘束時間を延長することができます。

 フェリー乗船の場合もトラックの運転手さんと同様で、フェリーの乗船中の時間は休息時間として取り扱います。乗船時間が9時間(2人乗務の場合は5時間ないし4時間、隔日勤務の場合は20時間)を超える場合は、下船後から次の勤務が始まる流れとなります。また、8時間以内の乗船時間の取扱いも同様で、休息時間から差し引くことができますが、下船後の拘束時間の1/2以上の休息時間を勤務後に取る必要があります。

 休日の考え方もトラックの運転手さん同様で休息時間に24時間を加算した時間となります。ですので、通常勤務の場合は『9時間+24時間の33時間』、隔日勤務の場合は『20時間+24時間の44時間』の連続した休息時間を下回らないようにする必要があります。

③タクシー運転手さんの猶予終了後における改善基準告示

 最後にタクシーの運転手さんの猶予終了後の取扱いです。前述のトラック、バスの運転手さんと似ているのですが、やはり若干時間が異なります。また、ハイヤーの運転手さん(運送の引き受けが営業所のみで、ハイヤー運賃の認可を受けたもの)はこの改善基準告示は適用されません。

                               厚生労働省『ハイヤー・タクシー運転者の改善基準告示』より

 まず、日勤の拘束時間が月299時間(年換算3588時間)から月288時間(年換算3456時間)に変更になりました。それと同時に1日の休息時間においては『継続8時間、隔日勤務の場合は20時間』から『継続11時間を基本とし、9時間を下限、隔日勤務の場合は継続20時間から継続24時間を基本に22時間を下限』となっています。

 1日の拘束時間は13時間までで、延長することがあっても15時間が上限となっており、14時間を超える回数は1週間に3回までが目安と・・・トラック・バスの運転手さんと同様になっています。また、拘束時間をカウントする方法も同様で、出勤時間が前ズレする時は注意が必要です。業務終了後の休息時間も同様で11時間を基本とし、最低9時間は取るようにしなくてはいけません。

 隔日勤務の場合の1か月の拘束時間が決まっており、262時間となっています。ただし、『地域的事情、その他特別な事情』がある場合で、労使協定が結ばれている場合の上限は270時間に延長されます。『地域的事情、その他の特別な事情』とは地方都市おける顧客需要の状況、大都市部における顧客需要の一時的増加等となっていますので、来年の大阪万博等は当てはまりそうな感じですね。
 それに加え、隔日勤務には2暦日での拘束時間が決まっており、22時間以内かつ2回の隔日勤務を平均し、隔日勤務1回あたり21時間以内となっています。この2回の隔日勤務平均し・・・という考え方はトラック・バスの運転手さんの『2日平均1日の運転時間』と似た考え方となっています。つまり、下の図のように考え、特定の隔日勤務の前後の隔日勤務と平均して、両方とも21時間を超えると改善基準告示違反となります。

                      厚生労働省『タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント』より

 また、隔日勤務の休息時間ですが、勤務終了後、継続24時間以上取る事を基本とし、継続22時間を下回ってはいけません。また、この隔日勤務と日勤を切り替える場合は生活のリズムを尊重し、日勤と頻繁に勤務態様を変える事は認めらません。制度的に一定期間ごとの交代を行う様にしていきましょう。

 タクシー運転手さん独特の働き方として『車庫待ち等』があります。まぁ、車庫等に待機する就業形態なのですが、労使協定を締結することにより、若干条件が緩和されます。ただし、その為には条件がいくつかあり、以下の様になっています。

・事業場が人口30万人以上の都市に所在していない事。
・勤務時間のほどんどにおいて『流し営業』を行っている実態でない事。
・夜間に4時間以上の仮眠時間が確保される実体である事。
・原則として、事業場内における休憩が確保される実体である事。

となっており、この条件をクリアすると『車庫待ち等』と認定されます。ちなみに今年4月からの改正後における改善基準告示時に車庫待ちとして取り扱われていた場合は、30万人以上の都市に所在していても当分の間は車庫待ち等の自動車運転者として取り扱われます。
 では、労使協定を締結するとどのように緩和されるかと言うと、日勤者の場合、1か月の拘束時間を300時間まで延長することができるようになります。また、『勤務終了後、継続20時間以上の休息時間があり」、『1日の拘束時間が16時間を超える回数が1か月で7回以下であり』、『1日の拘束時間が18時間を超える場合、夜間に4時間以上の仮眠時間がある』という条件をクリアすると1日の拘束時間を24時間まで延長することができます。
 隔日勤務の方の『車庫待ち等』に該当する場合は、労使協定を結ぶことにより、1か月の拘束時間を270時間まで延長が可能です。また、下の2条件をクリアした場合、基本の262時間もしくは270時間に10時間まで拘束時間を延長することができます。

・夜間に4時間以上の仮眠時間を取る事。
・労使協定により『2暦日の拘束時間が22時間を超える回数』及び『2回平均1回の隔日勤務における21時間を超  
 える回数の合計を1か月7回以内の範囲で定める事』

 また、この2要件をクリアした場合、2暦日の拘束時間を24時間まで延長することができます。

 予期しえない事象への対応としては、トラック・バスの運転手さんと同様となっており、対応時間を拘束時間から除くことができます。その場合であって、1日及び2暦日の拘束時間が最大拘束時間を超えた場合、勤務終了後、日勤の場合は継続11時間以上、2暦日勤務の場合は24時間以上の休息時間が必要になります。
 また、トラック・バスの運転手さんと同様、運転日報上の記録と客観的にその事由が起こった事を証明する資料等が必要になりますので、注意してくださいね。

 休日については休息時間+24時間となる点はトラック・バスの運転手さんと同様です。つまり、日勤の方は休息時間9時間+24時間の33時間、隔日勤務(2暦日勤務)の方は休息時間22時間+24時間の46時間を最低限として次の勤務まで空ける必要があります。

 また、タクシーの運転手さんには賃金制度の取扱いも決められており、『保障給は通常賃金の60%以上』、『累進歩合制度・トップ賞・奨励加給等の禁止』等が挙げられていますが、ここでは割愛したいとと思います。

 最後にハイヤーの運転手さんの時間外労働規制についてですが、タクシーの運転手さんに適用される拘束時間・休憩時間の適用は受けません。どのようになるかと言うと、『通常の36協定の場合、限度時間(月45時間・年360時間)以内の労働時間に収める事』、『臨時的で特別な事情によって限度時間を超える(特別条項付き)場合、残業時間は1年で960時間を超えない事』となっています。

④トラック運転手さんの課題

 これは物流2024年問題とニュースにもたびたび取り上げられていると思います。これは2024年の猶予終了によって、営業用トラックの郵送能力が14.2%減少すると想定され、物流が滞ることになると言われている問題です。
 私的には『荷待ち時間の長さ』、『ラストワンマイル問題』、『長時間労働の割に給料が安い』という事が課題になるのではないかなぁと思います。

1.荷待ち時間の長さ
 まず、いかに効率よくトラックを運転するかを考えた時、当然運転以外の時間を削り、トラック運転に拘束時間を振り向ける必要があるのではないかと思います。そこで、まず、効率性を阻害していると思われるのは入荷・出荷時の荷待ち時間です。
 物流センターへの入荷ですが、物流センターへの入荷(メーカーなどから集積センターへの入荷)は当日PM積み込み、翌日AM荷下ろし(AM8:00)が通例と聞きます。この時間に入荷トラックが殺到し、物流センターでトラックの長蛇の列ができる傾向にあります。また、物流センターは『荷』を入庫することが仕事であり、『どこの荷主の荷物が何時到着で・・・』という認識はなく、早く並んでいるトラックから荷下ろししているのが現状だと思われます。ですので、荷主・物流センターにおいてはどの程度の荷待ち時間があるのかを確認し辛く、荷主さんにおいてはただ『AM卸し(朝8:00)』を指定しているだけで、その内実が見えてない可能性が高いと思われます。まずは、荷主さんに物流センターでの荷待ち時間がどのようになっているかを把握してもらう事が必要だと考えられます。そこから物流センターへの入荷の時間予約制などを取り入れると入荷の荷待ち時間解消に繋がるのではないかと思われます。ただ、物流センターには十分な待機場所がない所も多いと聞いていますので、待機場所の確保もしくは時間通りに入荷するトラック運航のシステムが課題ではないかと思われます。
 次に出荷の場合ですが、一つは荷主から物流センターへの発注の遅さがあるのではないかと思います。物流センターは発注を受けてピッキングし、出荷用のトラックに積み込んでいくと思われますが、その発注遅れはピッキング遅れに繋がり、出荷トラックの荷待ち時間の増加に繋がります。荷主さんにはしっかりと時間的に余裕を持った『発注時間』で発注を行うと、荷待ち時間の減少となるのではないかと考えられます。特に想定以上の大量発注の場合はより余裕を持たせた『発注時間』が必要だと思われます。
 また、トラックへの積み込みには『パレット積み』と『手積み(バラ積み)』があります。パレット積みは・・・積み荷をパレットと呼ばれる台に載せて、パレットごとトラックに積み込む方法で、積み込み時間は短い傾向があり、手積みは名前の通り手でトラックへ積み込む方法となっており、積み込み時間が長い上、体力的にも厳しい積み込み方となっています。手摘みの方が積載量的には多く積み込めるものの、労力や積み込み時間を考えると、パレット積みの方がいいのではないかと思われます。積載量が積み込めないパレット積みは荷主さん的には避けたいかもしれませんが、荷待ち時間はもとより、ドライバーさんや物流センターの人の体力的な部分も考慮して、何とか理解してもらう必要がありそうです。
 これら荷主さんとの関係においては物流法案2法(流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法)が改正され、荷主さんにもこの荷待ち時間解消などに代表されるドライバーさんへの負担軽減のための『計画策定と定期報告』が求められます。また、それに合わせて『荷主事業者・物流事業者への取組に関するガイドライン』も発表されており、これからは荷主さん・物流センター・運送業者の3者が協力して、この荷待ち時間に対応していく事が期待されます。
 

2.ラストワンマイル問題
 これは私達一般消費者に関わる問題です。私自身、会社員だった時は通販などの荷物が届いた時、ほぼ家に居ませんでした。まぁ、帰ってきてから再配達の電話をするわけですが・・・ドライバーさんにとっては2度手間ですよね。時には不在票が2枚・・・3枚・・・となる場合もあり、申し訳ない気もしながら、仕事だししゃーない・・・と思ってました。その分、ドライバーさんは何度も私の家に来て『今日も不在か・・・』と肩お落して次の配達先に向かうのですが、当然、その時間も拘束時間であることを考えると、この再配達を如何に減らすかは拘束時間短縮の近道となります。
 この問題の解決策としては『宅配ボックスの設置』や『置き配』になるのではないかと思いますが、『置き配』はAmazonではもうやってますよね。この前、Amazonで通販を行ったとき、家に居たにも関わらず、置き配をされた時はちょっとびっくりしちゃいましたが・・・。私の家みたいに宅配ボックスが無い場合は盗難等ちょっと怖い面もありますが、ドライバーさんの拘束時間削減には非常に有効だと思います。また、郵便局は不在の場合、局留めになる場合が多いと思います。これも、ドライバーさんの再配達を減らすには有効だと思います。これからの宅配ボックスの設置率上昇、治安状況が良い日本の現状が長く続くことが望まれますね。

3.長時間労働の割に給料が安い
 トラックのドライバーさんは長時間労働の割にお給料が安い業界となっています。国土交通省のHPによると、トラックドライバーは全業種と比べ、年間労働時間は400時間程度大いにも関わらず、年収は40万円ほど少ない状況となっています。要するに2割多く働いているのに1割低いお給料しかもらえていないのです。

                                国土交通省『物流の2024年問題について』より

 当然、残業代も含んでの金額ですので、今回の猶予期間終了において残業時間が減れば、身体的には楽になるものの、その分お財布も軽くなることが想定されます。お給料の安さは離職にも繋がりますし、そうなるとますます物流が滞る事も悲しいですが想定されます。
 では、なぜ、お給料が安くなってしまうのか・・・これはトラック運送業者が乱立し、ダンピング競争になってしまった事、また、それに伴い荷主の立場が相対的に強くなった事(そのトラック運送会社に頼まなくても他の会社がある等・・・)、『標準的な運賃や積み込み料』が一応指針として定められていますが、守られていない場合も多い事、また、零細企業においては多重請けの下請けになっていることが多く、中抜きにより低料金で仕事を受ける場合(行きは荷物を積んで走りますが、帰りをできるだけ空で運行したくないので安い運賃で受けるなど)が多い事などが考えられます。これは業界の構造的な話も絡んできそうですので、こうした方がいいという事はできませんが、『標準的な運賃』を払ってもらうように荷主さんにお願いする。これにおいてはちゃんと運送契約を『口頭』ではなく、契約書を交わし、付帯業務(積み込み・積み下ろし作業など)がある場合は、別途請求する等、正当な料金を頂くように改善する必要がありそうです。
 また、私たちも送料無料を当たり前と思わず、適正な送料を考えながら、ネットショッピングなどを楽しみたいものです。

⑤バス運転手さんの課題

 バスの運転手さんも慢性的な人手不足で困っている状況です。路線バスの減便や廃止のニュースもよく聞きます。それに加え、今回の2024年問題です。何か対処法はないのでしょうか。私的に考えられる課題としては以下のような事が挙げられるのではないかと思います。

1.バス会社の収益性とドライバーさんのお給料
2.モータリゼーションによるバス利用度低下
3.公共性のある事業としての不採算路線に対する扱い


1.バス会社の収益性とドライバーさんのお給料
 まず、バス会社の収益はコロナ禍から回復基調ではあるものの、決していいとは言えません。2022年においても30%以上のバス会社が赤字となっています。また、コロナ化で消滅した需要に対応した措置(人員整理などを行った会社も散見されます。)から人的に立ち直れていない状況ではないかと推測されます。このコロナ禍対応と需要の回復が相まって、人員不足に拍車がかかり、求人倍率の2倍を超えてきています。

                                                     バス運転手さん年収

                                                   バス運転手さん労働時間

       バス運転手さん年齢(上の3表いずれも厚生労働省『統計からみるバス運転手さんの仕事』より)

 そのような中でバスドライバーさんの待遇がいいのかと言うと、なかなか厳しい状況となっています。まぁ、潤沢な利益が無い状況で待遇を上げるのは厳しいと想像できますが・・・
 上の3つのデータはコロナ禍までのデータとなっていますが、お給料的には400万円ちょっと(全業種は500万円弱)労働時間も長め、平均年齢も高めで高齢化が懸念される状況となっており、かなり厳しい状況となっています。コロナ禍が明けた現在においてはお給料的にはコロナ禍前ぐらいまでは回復しているのではないかと想像できますが、同様に労働時間の上昇も想像され、身体的には厳しい状況となっているのではないでしょうか。

2.モータリゼーションによる利用度低下
 まぁ、モータリゼーションは今に始まったことではないのですが・・・鳥栖に住んでいる私としては車は手放せません。よほどの大都会ではない限り、皆さんもそうなのではないかと思います。特に田舎においては一家に一台ではなく、一人に一台車があるというご家庭も多いのではないでしょうか。でもって、朝夕や渋滞に巻き込まれながらも・・・通勤・通学の送り迎え等を行っている状況だと思います。私なんて、地元のバス停でどこまで行けて、どの程度の頻度で運行しているのか・・・まったく把握してない状況です。まぁ、私の場合は行き過ぎだとしても、マイカーをお持ちでバスに頻繁に乗られる方は少ないのではないかと思います。
 路線バスや高速バスなどは定時で決まった路線を走る性質上、利用客が増えれば増えるほど・・・経費はそこまで上がらず、収益だけ伸びる産業であることは想像に難しくないと思います。私ができないことを言うのもなんですが(じゃあ、言うなよって突っ込みはやめてっ!)、たまにはマイカー通勤等をお休みしてバスを利用する回数を増やせば、バス会社の収益性が上がり、ついでに道路渋滞も緩和され、その結果、バスドライバーさんのお給料アップ、求人申込上昇、人手不足解消、労働時間削減といい方向に向かうのではないかと考えられます。ただ、バスに積極的に乗車するインセンティブが思い浮かばないので、絵に描いた餅なんだよなぁ。何かいい手はないものか・・・。
 って、自分でできないことを言うのもなんだかなぁって思いますけど・・・。

3.公共性のある事業として不採算路線に対する扱い
 バスの運行(特に路線バス)は地方インフラを支える大事な柱という部分があります。不採算路線においても簡単に廃線にすることは難しい状況です(それでも、検討に検討を重ね、廃線となる路線もありますが・・・。)。そして、過疎地ほど交通弱者と言われる(この呼び方はあまり好きではありませんが・・・)バスが無くなると困るお年寄りの方が住んでいる割合が多いのではないかと思われます。
 これはコンパクトシティ化など、地方都市の在り方を根本的に作り変える事も考えられますが、先祖代々の住み慣れた土地を離れる事を『よし』とする方がどれだけいらっしゃるでしょうか。効率のみで見ると様々なインフラの効率が上がりますので、有効でしょうけど、難しい問題ではないかと思います。
 私の無い頭では根本的な解決策など到底思いつきませんが、稼げる路線では連結バスなど輸送能力を上げた車両を使う等、しっかりと稼ぐ体制を作り、できるだけ、減便・廃線をしないようにする・・・ぐらいでしょうか。

⑥タクシー運転手さんの課題

 最後にタクシー運転手さんの場合はどのような問題が考えられるのでしょうか。タクシーの運転手さんはコロナ禍において特に影響を受けたと想定されます。リモートワークの増加、出張・飲み会等外出控え、インバウンド需要の蒸発などによって、タクシーを利用する機会が減り、それに伴い、業界を離れてしまった人が多かったのではないでしょうか。私が考えるタクシー運転手さんの2024年問題に対する課題としては次のようなものではないかと思います。すべてが課題という訳ではないですが・・・

1.タクシー運転手さんの働き方と給料方式
2.配車アプリの普及
3.ライドシェアの行方


1.タクシー運転手さんの働き方と給料方式
 まず、タクシー運転手さんの働き方ですが、下の図に厚生労働省の『自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト』から引用させていただいた基礎データがあります。

                                                    タクシー運転手さん年収

                                                 タクシー運転手さん労働時間

           タクシー運転手さん平均年齢(上の3表いずれも厚生労働省『統計からみるハイヤー・タクシー運転者の仕事』より)

 上から『年間労働時間』、『年収』、『平均年齢』となっています。
 まず、年間労働時間ですが、コロナ禍の2020年、2021年の労働時間が下がっており、人々の移動が極端に減少したことが伺えます。このことによる収入減により離職が増え、コロナ禍前にも増して人員の不足が起こっていることが想像に難くない状況です。また、コロナ禍前においては全産業と比較して長時間労働が目立っており、労働環境として厳しい状態が見て取れます。
 それに対して年収ですが、コロナ禍の時期を抜きにしても低めに推移しており、長時間労働の割に実入りが少ない状況となっています。その為でしょうか・・・平均年齢が非常に高く、若者の流入が少ない状況となっています。
 こうしてデータを見てみるとかなり厳しい労働環境となっているタクシー業界ですが、今回の2024年問題における労働時間減少を考える時に、タクシー運転手さんの収入の中身も考える必要があるのではないかと思います。通常、タクシー運転手さんは多かれ少なかれ『基本給+歩合給』で給料が構成されているのではないかと思います。『歩合給』は営業成績によって支払われる給料ですので、一定以上の成績を上げる必要があります。つまり成績が低いと『基本給』しかもらえないことになります。という事は・・・今回の2024年問題で乗車時間が減ってしまうと、必然的に成績が下がることが想定されます。そうなると『歩合給の減少→給料総額の減少』という流れが他業界よりも強く表れる事になるのではないかと憂慮されます。現状でも低めの年収となっていますので、若干の給与体系の見直し等を行い、できるだけ給与総額の減額を食い止め、これ以上の離職を食い止めると同時に魅力ある職場を作っていく必要があるのではないかと思います。

2.配車アプリの普及
 大手のタクシー会社においてはすでに配車アプリを利用し、効率的に配車を行っているこ所も多いのではないかと思います。タクシー運転手さんの減少と労働時間の減少は『流し』のタクシーの減少にもつながると考えられ、働き方改革が進むこれからの時代においては利用者にとっても路上でタクシーを見つけるよりもアプリを使い配車してもらう方が利便性向上に繋がり、より配車アプリによるタクシー利用が広がるのではないかと思います。この配車アプリの利用促進はタクシー運転手さんにおいても『タクシー運転手さんが利用者を探す時間の減少』、さらに進めば『待機場所においてアプリからの通知を待つなど、空車での運転時間の減少』など、メリットが大きいのではないかと思います。そうなると、拘束時間におけるお客様の乗車時間が増え、より効率的で収入減少もない業務が可能になるかもしれません。
 また、配車アプリを使った『相乗り導入』もタクシー運転手さんの労務改善と運送能力向上に貢献するかもしれません。まぁ、私が住んでいる鳥栖ではそこまで需要はないかもしれませんが、東京あたりだと割とニーズが出るような気がします。これも配車アプリの統一などが行われれば、スムーズに進む可能性がありそうです。
 問題としてはタクシー会社は個人営業も含め、中小の企業が多い事もあり、スムーズにシステム導入が行われるか、また、利用者においては1つの配車アプリでその地区のタクシー会社すべてに繋がるのがいいと思うのですが、競合する会社同士の利害関係はどうなるのか?などがあると思います。可能であれば、ぜひ全体の調整を行い、利便性の良い配車アプリを導入し、タクシー会社もタクシー運転手さんも利用者も・・・すべて満足するものができるといいなと思います。

3.ライドシェアの行方
 最後に最近何かと話題となるライドシェアです。タクシー運転手さんの労務改善には繋がるものの、まぁ、正直なと頃、タクシー会社は顧客の競合もあり、あまりやりたくない所だろうなぁと想像できます。現在は地域や時間などを限定し、タクシー会社のみが行えるようになるようですが・・・。実際、タクシー運転手さんもあまりライドシェアが広がりすぎると収入の減少に繋がりますので、微妙なところではないかなぁと思います。
 交通インフラを支えるという面、利便性においては全面解禁がありがたい所ですが、無秩序な導入は逆にインフラが破壊されるという可能性もあり、タクシー会社の利益圧迫、ひいてはタクシー運転手さんの収入ダウンも考えられますので、今回の部分解禁から落としどころを探り探り・・・導入していく必要がありそうです。

 最後にこの3つのドライバー業界において欠かせないものとしてIT・IoT・ICT・DX促進・・・呼び方はどれでもいい(いや、ほんとは良くないのですが・・・)のですが、先進の技術を利用して効率化を図ること事は必須だと思われます。
 トラックにおいては、現在、高速道路の自動運転の実証実験が行われていますし、ロボットによるラストワンマイル問題解消も実験されています。また、バス・タクシーにおいても同様に自動運転の試みが行われています。物流においても倉庫でのピッキングをはじめ、かなりの部分が自動化されている最中です。これもトラックの積み込み等に応用されると、効率化が図れるでしょう。
 これからもこのような労務改善に繋がる新技術が出てくると思います。それらをしっかりと活用しながら労務改善につなげていきたいところです。

 今回ドライバーさんの2024年問題を見てきましたが、どの業界も長時間労働の割に収入が低めで、苦労が絶えないと思い知らされました。トラックにおいても、バスにおいても、タクシーにおいても・・・私たちの生活に身近で必要不可欠なものであり、業務の効率化、業務改善を行い、若い方が働きたいと思う職場を作っていく事が重要だと思います。
 最後に私たちの生活を支えてくださっているドライバーの皆様に感謝しつつ、終わりたいと思います。
 まぁ、私の考える課題・・・は、なくてもいい蛇足だった気もしますが・・・
また、厚生労働省ののドライバーさんの働き方改革の特設ページを貼っておきます。

厚生労働省『自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト』

乱筆乱文失礼しましたっ。