国保逃れ。ダメっ!ゼッタイっ!

 さて、今回はかなり黒い・・・お話になりそうでちょっと怖いのですが、ここ最近ちょっと話題になった国保逃れのお話を書こうかと思います。ちょっと前に議員さんがこのスキームを使って保険料を安く抑えたと言って問題になりましたよね。そして、3月18日に厚生労働省がそのスキームを問題視し、協会けんぽ、日本年金機構、健康保険組合等の保険者に対して通達を出しました。

 そもそも国保逃れとはどうして行われたのか、そして、そのスキームの内容、それに対して厚生労働省はどの様な通達を出したのか、また、この国保逃れのスキームを使っていた人がどうなっちゃう可能性があるのかなどをザックリではありますが、書いてみたいと思います。

①そもそも健康保険料、年金保険料の仕組みってどうなってたっけ?
②今回問題になった『国保逃れ』ってどんな方法なの?
③厚生労働省の通達ってどんな感じ?
④このスキームを使ってた人はどうなる可能性があるの?

①そもそも健康保険料、年金保険料の仕組みってどうなってたっけ?

 まず、健康保険、年金の加入の仕組みを説明しないと、このお話は進まないと思いますので、ざっくりと説明しちゃいますね。細部は端折っちゃいますので、詳しく知りたい方はチャットGPT(ほんと便利だよねぇ。)あたりに聞くとすっごい丁寧に答えてくれると思います。と言うか、チャットGPTに聞けば、こんな場末のブログなんて見る必要はない気がするけど・・・💦

 と・・・前置きは置いておいて、日本国内に在住の方は何かしらの保険(国民健康保険・健康保険・後期高齢者医療制度など)や一定の年齢までは年金(国民年金・厚生年金など)に加入する義務があります。一つ一つ書くと長くなっちゃいますので、お話し的には健康保険を主に書いちゃって、年金方面は必要な時だけ話を出しちゃいますね。
 でもって、無職の方や自営業、フリーランスの方は国民健康保険、会社員や公務員の方は社会保険(共済組合含む)に加入することになると思います。75歳以上の方は後期高齢者医療制度ですね。その中で国民健康保険は所得の多寡によって保険料が上下しますし、国民年金は収入に関係なく年間20万円強かかります。それに対して被用者保険と言われる社会保険はお給料に比例してランク付けされて、そのランクに保険料率を掛けて保険料を支払う仕組みとなっています。
 どちらもパッと見た感じ・・・収入が多ければ多いほど保険料が上がる仕組み(どちらも上限はありますが・・・)の様に見えますが、国民健康保険は全収入に対して一定の控除をした後、一定料率を掛けて保険料が掛かるイメージ(まぁ、固定で支払う部分もありますが・・・。)ですが、被用者保険である社会保険は給料のみに保険料が掛かり、副業等でそれ以外の収入があった場合、その副業収入等は考慮に入れない仕組みとなっています。この社会保険料に関してはお給料を2か所から貰っている場合、合算したりする場合もあるのですが・・・。とりあえず国民健康保険は全所得を考慮し、社会保険は給与所得のみを考慮する形となります。また、これらの保険は重複して入る事はなく、必ず1つのみの加入となります(社会保険に加入していれば国民健康保険への加入はありません。)。

 という事で、同じ収入の多寡によって保険料が変わると思われるこの2つの保険ですが、すこーしだけ違いがあるのです。その違いを逆手に取ったスキームがいわゆる国保逃れと言われるスキームになります。

②今回問題になった『国保逃れ』ってどんな方法なの?

 前振りが終わったところで、今回問題になった国保逃れのスキームなのですが、前提として①で書いた『社会保険はお給料だけを参照に保険料を決定する』と言う仕組みと『役員(理事)さんは就業時間関係なく社会保険に加入する(ふつーの従業員さんは週30時間、特定適用事業所では20時間働かないと加入となりません。)』という2つの仕組みを利用しています。
 どの様に利用するか言うと、自営業者さんやフリーランスの方で、所得が高い方は国民健康保険料が高額(40歳以上の方の限度額は110万円(子ども子育て支援分除く)になりますし、これに加えて国民年金の保険料(年間20万円強)もプラスされます。という事は、限度額いっぱいに張り付いている方は130万円強の保険料を年間で支払う事になります。
 そこで、このような高所得の自営業者さんやフリーランスさんに対して保険料の削減を謳った勧誘が一部流行っていました。まぁ、『あなたの保険料高すぎませんか?削減する方法がありますよ?』と言う感じですね。
 これが今回問題になった国保逃れと言われるもので、その高所得の自営業者さん、フリーランスの方を社団法人など(実体があるかどうかは不明ですが・・・。)の役員(理事)にした上で、低額の役員報酬を支払う事により社会保険加入者にしてしまおーという事を行いました(役員さんや理事さんは就業時間の縛りが無い為、30時間や20時間働く必要がありません・・・。)。そうすると1人で2つの保険は加入できませんので、就業時間を問わない役員さんの場合は、国民健康保険・国民年金ではなく、社会保険のみに加入することになります。その場合、社会保険の低ランクの保険料を支払い、健康保険、厚生年金に加入することにより、高額な国民健康保険等の保険料を支払わなくても済むようになります。まぁ、その差額分が保険料の削減となるのですね。
 このスキームを利用すると、年間130万円強の国民健康保険料・国民年金保険料を支払っていたものが、年間14万円程度の保険料負担で済むことになっちゃうのです。しかも厚生年金加入となりますので、将来の年金金額も若干ではあるものの増えますし、傷病手当金(業務外における病気や怪我で就業できない場合、申請すればお給料の2/3が支給されます。)や出産手当金(出産により出産日(予定日)前後一定期間お仕事を休んだ時、申請すればお給料の2/3が支給されます。)を申請する権利等も健康保険加入で貰えることができます。

 でも、社会保険料は労使折半となっている事もあり、そのスキームを使う社団法人等は折半分の支出ばかりが増えて、損失が膨らむばっかりではないかと思われる方もいるのではないかと思います。まぁ、ふつーに考えるとそうですよね?
 そこで、その社団法人等は会費や研修料、協賛費用、コンサル料金等・・・名目はそれっぽかったらなんでもいいのですが、個人事業主さんやフリーランスの方からお金を徴収します。すると・・・仮に月3万円の役員報酬を支払う代わりに月6万円の会費の収入があると言った状況になったりします。会費の6万円から役員報酬3万円を支払い、残った3万円から社会保険料の会社負担分を支払って、そのまた残った分が社団法人等の利益となる・・・と言った寸法になります。
ちょっとわかりにくいので時系列で並べてみると・・・。

①業者(社団法人等もしくはコンサルの方)から自営業者、フリーランスの方に勧誘がある(高い
 国民健康保険料に困っていませんか?削減するいい方法があるのですが・・・等)。
②業者(社団法人等)と契約を行い、会費等の名目で業者(社団法人等)へお金を支払う。
③社団法人等の役員に就任し、低額な役員報酬を貰い、そのランクに沿って社会保険料を支払う
 (社会保険加入となります。)。
④その状態を継続し、会費等を支払い、低額な役員報酬から社会保険料を支払い続ける。

となります。まぁ、役員さんは働く時間に関係なく社会保険加入となる事と、被用者保険である社会保険やお給料のみを参照に保険料が算定される(この場合は役員報酬以外に多額の所得があるにも関わらず・・・)事を悪用(と言ってもいいのではないかと思います。)した仕組みですねー。でもって、これを行うことにより、どの程度保険料の削減になっていたのかというと・・・。
国民健康保険の支払い上限に達していた場合で考えると、こうなります。

・国民健康保険・国民年金の場合
医療分      :93万円(基礎分67万円・後期高齢者支援分26万円)
介護納付金    :17万円
子ども子育て支援金:現在不明です(上限額いくらなんだろ?)。
国民年金保険料  :215040円(令和8年度)
合計       :1315040円+子ども子育て支援金分

・健康保険料・厚生年金保険料(役員報酬3万円と規定・佐賀県の場合)
健康保険料    :58000円×10.55%=6119円
介護保険料    :58000円×1.62%=939.6円
子ども子育て支援金:58000円×0.23%=133.4円
厚生年金保険料  :88000円×18.3%=16104円
合計       :23296円(労使折半なので11648円ずつ)

・差額
1315040円-139776円(年換算)=1175263円(国民健康保険の子ども子育て支援金含まず)

となります。うーん、これは・・・会費が6万円だとしても、18000円ぐらいは役員報酬(保険料を差し引いた金額)として帰ってくるわけで、実質会費48000円/月程度だから、年間で掛かる費用は58万円程度、58万円で130万円をこえる保険料負担を回避できるのであれば、大きな保険料の削減となる事が分かります。奥さんや子供もいて、国民年金保険の保険料がもう一人分かかる状況(社会保険加入だと扶養配偶者の分は第3号被保険者として、社会保険料に含まれます。)だったり、お子様の健康保険料だったりが掛かる状況だったらなおさらです。

 逆に社団法人等側から見た場合はどうなるかと言うと、月額6万円の会費を徴収し、月額3万円の役員報酬と労使折半分の12000円の保険料負担分を支払うのだから、1人当たり月18000円の利益が出る計算です。

 まぁ、うまく考えたものだなぁとも思ったりするのですが、保険料は応能負担(収入が多い人は多く支払い、収入が少ない人は少なく支払う)のが原則です。そして、健康保険、厚生年金保険へのフリーライドではないか、はたまた回りまわって、その負担減分をまじめに働いて保険料を支払っている人の負担に上乗せされている状況ではないかと問題になりました。
 当然、まじめに国民健康保険や国民年金の保険料を支払っている人からは不公平であると不満が出る訳で、今回、厚生労働省も問題視し、今年の3月18日の通達に繋がって来たのですね。では、これまでは会社役員の社会保険加入について厚生労働省はどの様に考えていて、今回、どのように変わったのでしょうか。見てみたいと思います。

③厚生労働省の通達ってどんな感じ?

 今回の国保逃れと言うスキームを使った、ある意味、健康保険、厚生年金保険へのフリーライドとも思われる仕組みに対して、厚生労働省はどの様な通達を出したのでしょう。これまでの考え方と合わせて見てみたいと思います。

これまでは・・・
1.その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか。
(該当しないと考えられる者)
・当該法人の役員会等に出席しているが、当該役員への連絡調整や職員に対する指揮監督に従事し
 ていない場合。
・当該法人において求めに応じて意見を述べる立場に留まっている場合。

2.その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか。
(該当しないもの)
・役員会等への出席について支払われる報酬等
・旅費など実費弁償的な支払
・退職手当(毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされている場合には報酬に該当)

今回の通達において1.と2.の判断基準においては変更はないものの、該当しないと考えられる事例が細かくなっています。どのような感じになるかと言うと・・・。

1.その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか。
(これまでの1.の判断に加えて・・・)
・知識向上のためのアンケートへの回答や勉強会への参加等、その実務の実態が単なる自己研鑽に
 過ぎないもの。
・単なる活動報告や情報共通等、役員としての具体的な指揮監督や権限の行使に当たらず、それ自体
 が直接的に法人の経営に参画しているとは認められないもの。
・当該法人の事業の紹介等について単なる協力やお願いに留まっており、労務を提供する義務を負っ
 ているとは認められないもの。

2.その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか。
(これまでの2.の判断に加えて・・・。)
・個人事業主等が法人に対して、役員としての報酬を上回る額の会費等を支払っている場合(関連法
 人に会費等を支払っている場合であっても、当該法人の役員となる上の実質的な条件となってお
 り、単に資金を移動させているに過ぎない事が想定されるなど、実質的にこれらを同一の法人とし
 て取り扱うべきと認められる場合を含む。)

となっています。更に法人に経営に参画しているかどうかの判断基準として以下のものが例示されています。

・指揮命令権を有する社員の有無(具体的な業務に就いて指揮監督する従業員や他の役員がいるか)
・決裁権を有する所管業務の有無(担当する業務について決裁権があるか)
・役員間の取りまとめや、代表者への報告業務の有無(役員会等に出席し、役員への連絡調整など
 を行っているか)
・定期的な会議への出席頻度、それ以外の業務の有無と出勤頻度(会議に参加し、求めに応じて意
 見を述べるにとどまっていないか、会議に参加する以外の業務は他にあるか、その業務の為にど
 れくらい出勤しているか)

 まぁ、総合的に判断するとなっていますので、すべてに適合していないといけない訳ではありませんが、当然、実態が薄くなれば薄くなるほど、業務の実態がないと判断される事になりそうです。

 しかも、多分・・・これが一番問題なのではないかと思うのですが、これまではその役員としての業務がどのような業務なのか判断が難しく、形式を整えて書類を持っていくと社会保険加入が認められる状態だったのではないかと思われます。それが、今回の通達により、より実質的なと言うか・・・実体的な業務がどうなっているかを個別具体的に確認した後、社会保険加入が認められるようになることではないかと思います。特にキックバックというか、会費等を社団法人等に支払っている場合は、一発でアウトになるのではないかなぁと思います。という事は・・・この国保逃れのスキームはスキームとして成り立たなくなるのではないかと思われます。
 確認等が煩雑だと思いますので、協会けんぽの職員さんたちも大変かとも思いますが、保険制度へのフリーライドはやはり良くない事です。しっかりとチェックして、撲滅して欲しい所ですよね。

④このスキームを使ってた人はどうなる可能性があるの?

っと、上記のような通達でこのスキームは今後使えなくなると思うのですが・・・現状、このスキームを使って国保逃れを行っていた人もいるのではないかと思います。その方たちはどうなるのでしょう?
 これは・・・通達文においては『健康保険等の被保険者資格を有さず、事実と異なる資格取得の届出は健康保険法第48条及び厚生年金保険法第27条の規定に反することとなるため、法人の役員である個人事業主等について法人に使用されている実態が無いことが確認された場合は、当該個人事業主等の資格喪失の届出を提出させ、その被保険者資格を喪失させること』とあります。まぁ、この健康保険の48条と厚生年金の27条は『届出』に関する条文ですね。だから、『これらの人は届け出に関する条文の規定違反なので、喪失届を出させてね。』と表面上を見るとそうなります。

 ただ、これが喪失届を出した時からの喪失だと、将来的に国民健康保険と国民年金に入り直すだけでいいので、まぁ、将来的な節約の利益を失うだけですので、いいのですが・・・遡及喪失となると、かなりヤバい状況となります。私的には大きな悪意はなく、コンサルなどの人に『ここの社団法人の役員(理事)になるとお得ですよっ!』と勧められるままに役員に就任した人も多いと思いますので、この喪失の手続きをした時点での喪失がいいんじゃないかなぁとは思います。

 仮に・・・社会保険加入時からの遡及喪失となった場合、最初から健康保険、厚生年金保険に加入が無かったことになりますので・・・その無加入となる期間の扱いが問題となってきます。
 その場合、保険料徴収の時効が2年間ですので、まず、過去2年間分の国民健康保険の保険料(最大110万円程度)が請求される事になります。当然、厚生年金も非加入になりますので、過去2年分は国民年金に加入することができるのですが、その前の分は加入ができない事になります。60歳を超えてから任意加入するしかなくなる状況になっちゃうのですね。あっ、遡及喪失の日以降の社会保険料はすこーしですが、返ってくるのではないかと思われます。
 その過去2年間に病院に掛かった分の自己負担分以外の医療費は国民健康保険に切り替わりますので、3割負担で賄えるのですが(保険者が協会けんぽ等から市町村に変ります。)、それ以前の医療費に関しては窓口負担分以外の7割を支払ってくれる保険者がいないことになりますので、医療機関から残りの7割を請求される可能性があります。その間に大きな病気などをしていると・・・ちょっと考えただけでも怖くなっちゃいますね。


 と、今回は国保逃れと呼ばれる、保険料削減スキームに厚生労働省のメスが入りましたーっというちょっと黒いお話をさせて頂きました。やはり、応能負担(支払い能力がある人が支払う)は税金や保険料の基本です。それを掻い潜る行為は今回の通達が無くても、あまり良い気はしませんっ!
やっぱり、しっかり稼いでしっかり納めるっ!
 これが納税や保険料納入の基本ですねっ。まぁ、高すぎて目がくらむ時がたまーにあるのは秘密ですが・・・。
 ただ、今回の事例においては、上に書いた様にコンサルさんとか、税理士さんとか、あるいは私達社会保険労務士とか・・・制度を理解している人からの勧誘で、よくわからずにこのスキームに乗っちゃった人も多いのではないかと思われます。それを考えると、よっぽど悪質なもの以外は過去の清算を行わせる遡及喪失ではなく、将来的な是正だけを考えた、届出時喪失の方がいいのではないかなぁ・・・と思います。ただ、その判断をするのは私ではないからなぁ・・・。どうなる事やら💦

最後に、今回の通達のリンクを貼っておきますね。

厚生労働省『法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて

今回も乱筆乱文、失礼しましたっ。