贈与税のルールが変わったよ②

 前回は贈与税の昨年までの概要と若干の注意点を書いてまいりました。今回はその贈与税において今年どのような変更点があったかを書いていきたいと思います。他の特例も金額や要件が若干変わったものもあるのですが、今回は暦年贈与と相続時精算課税制度両方に大きな変更がありましたので、そちらを書いていきたいと思います。暦年贈与は改悪、相続時精算課税制度は改良となっています。

①暦年贈与の変更点
②相続時精算課税制度の変更点
③活用する時の注意点
④どのように使い分ければいいか考えてみた

①暦年贈与の変更点

 現在、相続税対策としてよく使われている暦年贈与ですが、今年からどのように変わったのでしょうか?贈与人に相続があった場合(残念ながら亡くなった場合)、相続の日から3年間さかのぼって、贈与はなかったもの(贈与した金額は相続財産に加算され、納付した贈与税は相続税から差し引く)とみられる制度がありました(3年持ち戻しと呼ばれます。)。ただし、これは相続人に限りますので、例えば・・・お孫さんなどに贈与する場合は対象になりません。ただし、お孫さんが法定相続人であったり、遺贈があったり、生命保険の受け取りにだったりして、相続に関わる場合は対象になりますので、ご注意です。
 さて、この3年持ち戻し制度がどのようになったかと言うと・・・7年に延びちゃったのです。
 毎年100万円を贈与し続けたと仮定して表にしてみると・・・

1年前2年前3年前4年前5年前6年前7年前合計
去年まで100万円100万円100万円0円0円0円0円300万円
今年から100万円100万円100万円100万円100万円100万円100万円600万円
                                                           持ち戻しのイメージ

 この表の様に去年までなら相続財産に加えるべき金額は300万円で済んだものが600万円に増えてしまうのです。ここで・・・あれ?700万円じゃないの?って思うかもしれませんが、4年目から7年目に贈与があった場合、その期間の金額から100万円だけ相続財産に加えなくてもいいというルールも合わせて新設されています。ですので、700万円から100万円引いて600万円となるのです。ちなみにこの7年間に基礎控除金額である110万円を超えて贈与を行っていた場合、その時に支払った贈与税も考慮に入れながら相続税を計算します(つまり、すでに支払っている贈与税は相続税から差し引くことになります。)。
 でもって、今年からといっていますが、どのようなスケジュールになるのでしょうか?次の表の様に今年を基準に3年間から増えていく感じになります。つなり7年間に到達するまでは持ち戻しの開始年は今年となります(令和8年までは3年間のままで、その後、令和6年1月1日を起算日に1年ずつ増えていく感じになります。ですので、丸々7年間になるのは令和13年からとなります。)。

令和6年令和7年令和8年令和9年令和10年令和11年令和12年
3年3年3年3年~4年4年~5年5年~6年6年~7年
                                                   持ち戻し期間7年へのスケジュール

 確かに、外国ではこの持ち戻し期間は長めにとっている国が多い事を考えると、国際基準になりつつあるのかも・・・?と思う事もありますが、相続財産を減らすという節税対策の為に贈与を行っているのに、相続財産に加算される期間が増えるという事はかなりの痛手になるのではないかと思われます。

②相続時精算課税制度の変更点

 持ち戻しの期間が改悪となった暦年贈与ですが、相続時精算課税制度はどのような変更があったのでしょうか?こちらはかなり使い勝手が良くなっています。
 まず基礎控除という概念がなかった相続時精算課税制度ですが、今年から110万円の基礎控除枠ができます。また、この控除においては暦年課税同様、110万円の基礎控除以内の贈与であれば申告が必要ありません(最初に相続時精算課税を選択します・・・という書類は出さないといけませんが・・・)。そしてそして・・・暦年贈与ではあった『持ち戻し』(去年までは3年、今年からは段階的に7年)もないのです。亡くなった年の前年の贈与であっても、相続金額への加算が無い事になります。
これを踏まえて、前回のコラムに書いた4年間1000万贈与を行った例の表を差し替えてみると・・・

1年目2年目3年目4年目相続時
贈与金額1000万円1000万円1000万円1000万円4000万円
枠の残り1500万円500万円0円0円
贈与税額0円0円100万円200万円300万円

                  これが↓のようになります。

1年目2年目3年目4年目5年目
贈与金額1000万円1000万円1000万円1000万円4000万円
基礎控除110万円110万円110万円110万円440万円
枠の残り1610万円720万円0円0円
贈与税額0円0円34万円178万円212万円
                                                 新しい相続時精算課税制度のイメージ

 この4年間だけを見ても贈与税納付額が300万円から212万円へ88万円の減少とかなりの節税効果に繋がる事が分かります。また、基礎控除額は相続財産に加える必要もありませんので、相続時の相続価格に加える金額は3560万円となります。
 今回の例は1000万円という多額の贈与を4年間のみ行ったケースとなっており、もっと長期視野でうすーくながーく贈与を行うと、かなりの節税に繋がると考えられます。暦年贈与持ち戻し期間の長期化も合わせて考えると・・・この相続時精算課税制度を利用することも視野に入るのではないかと考えられます。

③活用する時の注意点

 なんか最初に書類を出さないといけませんが、良いところずくめに見える相続時精算課税制度ですが、注意点はないのでしょうか?・・・残念ながらあったりします。

・注意点①途中変更はできませんので注意!
 これは前回も書きましたが、一度この相続時精算課税制度を選択してしまうと、途中で暦年贈与に戻ることはできません。そして・・・これは穿った見方ではあるのですが、暦年贈与の排斥機関(時効のようなもの)は6年(悪質な場合は7年)です。もし、うっかりさんで暦年贈与の申告を忘れたとしても、7年経つと税務署はそれを指摘することができないのです。しかしながら、この相続時精算課税制度を選択した場合、選択後の贈与があった時から何十年経っても補足されるのではないかと思うのです。これに対しては対象となる贈与者が60歳以上なので、そんなに長生きできませんよ?って反論がありそうですが、人生100年時代、どれだけ生きるかわかりません。仮にその間に金銭のやり取り(子供が親の家のリフォーム代を一時的に立て替えた後、親からお金が振り込まれたとか、施設に入るお金を子供が一時的に立替・・・以下同じとか・・・)があって、30年とか経過している場合、その建て替えただけのお金が贈与ではなく、どのような経緯で振り込まれたか覚えているでしょうか?下手をすると、これは贈与だよね?と指摘される事にもなりかねず、相続財産に加算される可能性があるのではないかと・・・性根が曲がっている私は思ってしまうのです。ですので、この制度を使う場合は、長期になりすぎない、贈与者(相続時精算課税制度を選択した贈与者)との金銭のやり取りは何かしら証拠を残し、贈与ではないことを説明できるようにしておく・・・などの対策が必要な気がします。

・注意点②複数人と相続時精算課税制度を選択する時は注意!
 複数の人(例えばお父さんとお母さん両方となど)と相続時精算課税制度を利用した場合、開始時の書類は対象人数分用意し、申請する必要があります。これは相続時精算課税制度は贈与者と受贈者と1対1の関係性で成立する制度ですので、贈与者の人数分の申請が必要になります。1人分申請したからといって安心せず、必ず相続時精算課税制度を行う人数分の申請を行いましょう。
 また、相続時精算課税は1対1の関係で成り立つのですが、基礎控除額の110万円はどのようになるのか・・・と言うと、贈与者の課税価格で按分します。2人から相続時精算課税で贈与を受けたら220万円の基礎控除になるとはならないので注意です。ちなみに2人だと課税価格がない場合はそれぞれ55万円ずつが基礎控除額ということになります。

・注意点③お孫さんに相続時精算課税制度を使う時は注意!
 相続時精算課税制度を使ってお孫さんに贈与をする場合は、本来入らなくてもいい相続の話し合いに巻き込まれる可能性があるので注意です。まぁ、相続の話し合いはあまり楽しいものではないですからねぇ。また、相続税の2割加算の対象にもなりますので、相続税が割高になります(これは代襲相続で法定相続人になっている場合は関係ありませんが・・・)。ただ、ちゃんと基礎控除金額に抑え、例外を作らない贈与を行う場合は、相続の代飛ばし(おじいちゃん→お孫さんへとお父さんの代を飛ばして、相続税対策を行う。)も兼用できますので、いい方法かもしれませんが・・・お孫さんが法定相続人でない場合は暦年贈与で贈与を行っても、相続時の持ち戻しはありませんので、法定相続人でない場合(法定相続人であるお父さんもしくはお母さんが健在である場合)においては基礎控除金額内で暦年贈与を行う方が賢明ではないかと思います。

・注意点④自宅土地や事業用土地を相続時精算課税制度で贈与する時は注意!
 住居用土地や事業用土地を相続時精算課税で贈与する時は注意が必要です。これは・・・相続時に条件はあるのですが、一定の面積まで最大80%ディスカウントした評価額が相続税評価額に適用される制度があるからです。相続時精算課税を使って対象の土地を贈与した場合、この制度が使えなくなり、結果、増税となりかねません。値上がりが予想されそうな土地などは早めの贈与をしておきたいところ(贈与時の価格で固定されます。)ですが、このディスカウント(小規模宅地等の特例と言われます。)を考えると、その分の余力(住宅地333㎡、事業地400㎡、貸付地200㎡までで、個別ではなく全体で考えます。)を残しているのであれば良いのですが、ケースよって変わってくると思われるものの、そうでない場合は相続時精算課税で贈与するのではなく、相続時に回した方がいいかもしれません。

④どのように使ったらいいのか・・・考えてみました。

 では、この使い勝手が良くなっていそうで税務署の補足度が上がった(勝手な思い込み)と思われる相続時精算課税制度ですが、どのような使い方がいいかなぁっと勝手に考えてみました。

 まず、1つ目が本来の使い方である、まとまったお金の援助が必要な時は有用ではないかと思います。マイホーム購入(これは別途特例もありますが・・・)や会社経営等で急に資金が必要になった時など、一気にお金が必要だけど、贈与税分目減りするのは避けて先送りしたい・・・という時はこの相続時精算課税を使うと贈与時には2610万円までは贈与税が掛からずまるまる受贈者が使えますので、ありがたい制度ではないかと思います。また、将来価値が上がりそうな土地(小規模宅地等の特例を考慮しながら・・・)や株式等をこの制度を利用して贈与を行うと価格は贈与時に固定されますので、相続時に値上がりしていたとしても廉価での相続ができますので、利用する価値があると思われます。

 2つ目としては、節税対策として暦年贈与を110万円に届かない範囲で長期的に行い、死期を感じたら(縁起悪いなぁ)というか、ある程度の所で相続時精算課税に切り替える。するとあまり長期間相続時精算課税制度を利用することなく、持ち戻し期間を若干少なめに抑える事ができる可能性があります。まぁ、人間、いつ死ぬかわからない(なんか・・・棘がある言葉だなぁ。)ので、正確に切り替えてから7年後に亡くなる事はありませんが、暦年贈与における4~7年目における100万円の控除も考えれば多少の節税対策にもなり、お金のやり取りを覚えておく必要のある期間を短くできるのではないかなぁと思います。

3つ目としては両親が健在な場合、お父さんからは相続時精算課税で、お母さんからは暦年贈与を110万ずつ貰えば、220万円までは基礎控除金額内で収まる(両方暦年贈与、または両方相続時精算課税制度の場合は両親からの贈与を合わせて110万円までです。)事になりますので、ある程度急いで節税対策をする必要がある場合は有効かもしれません。ただし、暦年贈与には7年間の持ち戻し期間がありますので、注意が必要です。

 前回、今回と贈与税の概要や今年からの変更点を書いてきました。まぁ、書いてて・・・私資産無いから関係なよなぁとか思ったり、お金もちいいなぁとか思ったり、やっぱ亡くなる事を書くとちょっと気分滅入るなぁとか思ったりしちゃいました。家庭内でも亡くなることを前提とした贈与とか相続とかは話しにくい話題ではありますが、こればっかりは生きている時にしかできません。死んでしまったら、何も口出しできないのです。それに、相続が争族になるのは資産家ばかりとは限らない(実数においては資産が少ない方の方が多いというデータも出ています。)ので、私みたいなびんぼー人でも遺産争いは起こるのです。ですので、このような制度をしっかりと理解した上で、賢く、計画的に後々子供たちが揉めない形で子孫に財産を残すようにしていきましょー!
 あっ、最後に今回の税制変更に対する国税庁のパンフレットがありましたので、リンクを貼っておきます。
 今回も乱筆乱文失礼しましたっ。