106万円の壁・130万円の壁?②
さて、前回は106万・130万円の壁とはどのようなものか、拙いながらも書かせていただきました。106万円の壁は保障が厚くなったり、老後の年金の額が増えたりしもします(130万円の壁の方は残念ながらメリットが思いつきませんでした><;)が、大幅な手取り額減となり、その壁を乗り越えないような働き方になるのは仕方がない事かもしれないなぁと思っちゃいました。
今回はその壁を乗り越えるべく厚労省から発表された『年収の壁・支援強化パッケージ』をメインに書いていきたいと思います。これは昨年9月に発表され、10月から施行された施策となります。多分、最低賃金の大幅上昇により(佐賀県でも853円から900円へと47円も上昇しました。)、この年収の壁を意識した働き方を行った場合、大幅に就労時間が減収する(当然、収入は『時給×時間』がパートで働く方の基本だと思われますので・・・。)事を受けて急遽決められたものだと思います。まぁ、最低賃金が上がることはうれしい事ではあるのですが、それで働く時間が減ってしまえば会社が困ってしまうという事態が起こっちゃいます。それで、この事態を打開するために何とかしようという意図が見えますね。
では、どのような支援パッケージが発表されたのかを見ていきたいと思います。ただ、ここでは書ききれない事もたくさんありますので、詳しくは『厚労省のホームページ』をご覧ください。
①106万円の壁支援強化パッケージ
②130万円の壁支援強化パッケージ
③その他注意が必要なことについて
①106万円の壁支援強化パッケージ
特定適用事業所(任意特定適用事業所も含む)で働くパート、アルバイトさんにたちはだかる壁に対して打ち出した支援強化パッケージは会社に対する助成金制度です。まぁ、ぶっちゃけて言えば、『手取り減少分を補填した会社には助成金を出しましょう!』という事になります。ですので、この助成金は給料アップにより新たに社会保険適用となった方が対象となります。この助成金はキャリアアップ助成金の『社会保険適用時処遇改善コース』と呼ばれ、3パターンに分かれています。それぞれ、『手当等支給メニュー』、『労働時間延長メニュー』、『併用メニュー』となります。
これがどのようなものかと言うと、以下の通りとなります。
(1)手当等支給メニュー
これは社会保険適用ととなった時に、手取りが減らないように手当として減少分のお金を上乗せした会社に助成金を出す制度となります。詳しくは下の表の様に、フルで活用すると50万円(大企業は37.5万円)の助成金を受け取ることができます。条件としては1・2年目においてお給料(月々の社会保険等級である標準報酬月額とボーナスがある場合はボーナスの標準賞与額)の15%以上の手当金の支給、3年目には18%以上賃金(時給)上昇を行った場合です。また、2年目の支給は3年目の取組が行われることを条件としています。前回確認したように106万円のお給料の場合、8.8万円級でしたので、1・2年目は月13200円以上の手当、3年目は18%以上の時給アップを行うことが目安になります。ちなみに2・3年目は労働時間の延長との組み合わせとも可能です。これは後ほど書いていきます。
厚労省HPより
申請のイメージとしては下の図のような感じになります。半年に1回申請を行い、2年半(2年と8か月)で終了するイメージでしょうか。結構長い期間申請していく事になりそうです。
厚労省HPより
また、この手当を『社会保険適用促進手当』の名称で働く方が社会保険に加入する時の保険料軽減を目的としたものである場合、その手当があるために社会保険の等級が上昇し、新たに発生した本人負担分の保険料負担分を上限に標準報酬月額・標準賞与額のの算定に考慮しないことができるとのことです。ただし、11万円級になると対象外になりますので、なかなか塩梅が難しいですね。その上限額は佐賀県(介護保険あり)の場合、健康保険料10.51%、介護保険料1.82%、厚生年金保険料18.3%ですので、以下の様になっています。
標準報酬月額 | 8.8万級 | 9.8万級 | 10.4万級 |
対象上限額(年額) | 約16.1万円 | 約18.0万円 | 約19.1万円 |
上限時負担減少額 | 労使共約2.4万円 | 労使共約2.7万円 | 労使共約2.9万円 |
ちなみにこの負担軽減は2年間に限り、また令和7年度末までの施策となっています。
(2)労働時間延長メニュー
これは所定労働時間(あらかじめ労働契約で決めた労働時間)を延長することにより、年収の壁分以上の手取りを働いている方に受け取ってもらおうという意図で組まれたメニューです。所定労働時間と時給上昇の組み合わせによって、4パターンの方法があります。それは・・・『週の所定労働時間4時間以上増加』・『3時間以上増加+5%以上時給アップ』・『2時間以上増加+10%以上時給アップ』・『1時間以上増加+15%以上時給アップ』となります。この施策を行った場合、半年後に30万円(大企業は22.5万円)の助成金が頂けます。
厚労省HPより
仮に週20時間時給1000円で働いている場合・・・30日の月で月平均86時間弱働いている事になります。週4時間所定労働時間を増やした場合、103時間弱働く計算になります。その103時間働いた時の月収は10.3万円、健康保険等級は10.4万円の6等級(厚生年金保険等級は3等級)となります。この時にかかる健康保険の保険料は5465円(40歳以上の方は6412円)、厚生年金の保険料は9516円(どちらも労使折半済みの金額)となります。合計すると14981円(15928円)となります。ですので、手取り額としては88019円(87072円)となります。(税金、雇用保険は考慮に入れていませんので、実際はもう少し減ります。)。週20時間働いていたときは86000円ですので、働く時間だけが伸びる事を『よし』とするのか・・・働く側としては疑問が残る気がします。
ですので、この労働時間延長メニューを考える時は、時給の上昇もしっかりと考慮に入れ、働く人が笑顔で働けるようにするのがいいのではないかと思われいます。まぁ、去年も47円最低賃金が上がったこと、今年の春闘もかなり勢いがありそうなこと、物価も高めに推移していることを考えると、今年も大幅な最低賃金上昇がありそうな気がします。それを若干前倒しすると考え、人手不足を少し時間延長して働いてもらうことで解消するのがいいのではないかと思います。
(3)併用メニュー
併用メニューは(1)の手当等支給メニューと(2)の労働時間延長メニューを組み合わせたものとなります。1年目は手当等支給メニューに則り、手当を支給し、2年目は労働時間延長メニューに切り替え、所定労働時間の延長と時給アップを行う・・・と言ったやり方です。1年目は半年ごとに10万円(計20万円、大企業は15万円)、2年目は30万円(大企業は22.5万円)の助成金を頂くことができます。
高両省HPより
当然、働く方の希望に沿う方法を探ることを考えるのが一番なのですが、希望に沿うのであれば、このメニューが一番いいような感じがします。
(4)注意事項です。
キャリアアップ助成金を受けるためには、事前に『キャリアアップ計画書』を提出する必要があります。ですが、今回は急に決まった助成金の為、今月いっぱいまでに始める場合は、1月31日までに提出すればいい事になっています。まぁ、1月ももう日が無い事ですので、導入を考えられている事業所においては前もって忘れずに『キャリアアップ計画書』を提出する様にしましょう。
また、この助成金は令和8年度末までの時限付き助成金となっています(社会保険適用促進手当の標準報酬月額不算入は令和7年度末まで。)。そこまで急ぐ必要はありませんが、助成金申請は手続きが複雑な事もあり、早めの準備を行うようにしましょう。
そして、これが一番大事かもしれませんが、この助成金を活用しようと考えた時、既存の社会保険加入されている社員さんとの不公平感が生まれないようにしないと、良かれと思ってしたことなのに、職場環境がぎくしゃくしてしまう可能性があります。これではお金では買えない、せっかく築いてきた職場の財産が壊れちゃうことになりますので、不公平感が出ないように十分な配慮は絶対条件ではないかと思います。
賃金の上昇は労働原資を考えると痛い出費と思われるかもしれませんが、最低賃金が大幅に上昇しつつある現在において、時給アップは避けられない状況ではないでしょうか?それならば・・・最低賃金を気にしながら経営するのではなく、このようなありがたい助成金を活用し、働く方と働き方をしっかりと話し合いながら、その希望に寄り添った働き方を提供し、より満足のいく職場環境を作っていくのがいいのではないかと思います。
確かに助成金申請はキャリアアップ計画書に始まり、就業規則の変更や、労働条件通知書や賃金台帳、場合によってはタイムカードなど提出する書類も多く、面倒な作業となりますが、働く社員さんの職場満足の為、また、職場満足による離職率の低下の為、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょう!
ここでは書ききれないことがたくさんあり、概要しか書けていませんので、詳しくは厚生労働省のHPをご覧になってください。
②130万円の壁支援強化パッケージ
次に130万円の壁についてです。これはお仕事が忙しくて一時的に労働時間が増え、年収が130万円超えちゃった。という時に活用するものになっています。あくまでも繁忙期に所定時間より長く働いた事により130万円を超えた事が要件となっており、単なる時給アップで130万円を超えた場合は対象になりません。ただし、時給アップもあったけど、それだけでは130万円を超えない場合で、繁忙期があり、所定時間より長く働いたため130万円を超えてしまった場合は対象となります。
イメージとしては下の図のようになります。
この制度を利用するためにはパート先に繁忙により収入増になった証明書を出してもらわないといけませんので、残業が続いて収入が130万円を越えそうな時はパート先の経営者(もしくは人事担当の方)の方に証明書が出るのかを聞いてから残業を行わないと悲しい目に合いそうですので、しっかりと確認することをお勧めします。ちなみに証明書のひな形は厚労省HP(このページの真ん中あたり)にありますので、参考にされると良いと思います。
また、この証明書による被扶養者認定は『連続して2回』が上限となっていますので、通常、扶養確認は年1回だと思われますが、年複数回行っている健康保険組合の場合、どのような扱いになるのか?・・・確認した方がいいでしょう。
その他にもこの制度を活用する注意事項は多々ありますので、こちらも一度厚生労働省のHPをご覧になってください。
③その他注意が必要な事
その他の注意事項として会社独自で行っている扶養手当(配偶者手当などの名称かも?)がある場合があります。この配偶者手当の支給要件は税法上の扶養であったり、106万円・130万円の壁であったり・・・会社によって様々ですので、給与アップにより支払い要件から外れる場合がありますので、一度確認した方がいいでしょう。厚労省のHPでもこれを他の手当や基本給に振り分けるように推進しているようですが・・・この手当に対する考え方は会社次第でしょうし、改正するにも不利益変更にならないためにはどうするか・・・働く方々の公平感を出すにはどうするか・・・などなど悩ましい問題も多そうです。
また、年金制度改正が2025年にあり、今回の対応はそれまでのつなぎ的なものと考えられます。ですので、この改正後、パートさんのほぼすべてが厚生年金加入など・・・何かしらアクションがある気がしますので、充分、注視して対応していく事が求められます。まぁ、私が勝手に予想するに年収の壁がものすごく低くなり、働いている人ほぼすべてが社会保険加入となるのではないかと邪推しています。そして、何かしらの激変緩和措置(例えば、今回の年収の壁支援強化パッケージのようなもの)が時限付きで施行される・・・そんな感じになるのではないかなぁと想像します。
さて、前回と今回で106万円の壁と130万円の壁について書いてきました。ちゃんと対応することで働きたいのに壁が気になって働けないとか、人手不足なのに時間延長ができないという事態が減り、雇用のミスマッチが解消されることを期待しています。
思いっきり働いて思いっきり稼ぐっ!・・・そうなるといいですね。
では、乱筆乱文失礼いたしました。