106万円の壁・130万円の壁?①

 アルバイト・パートと言った時間を短縮して働いてらっしゃる方に馴染みのある言葉として年収の壁と言うものがあります。これは100万円、103万円、106万円、130万円、150万円、201万円・・・と様々となっています。この中で100万円・103万円・150万円・201万円の壁は税法上の壁、106万円・130万円は社会保険上の壁となっています。今回は社労士の端くれとして、社会保険の壁である、106万円、130万円の壁について書いていきたいと思います。また、次回になりますが、昨年9月末に厚労省から発表され、10月から施行となった『年収の壁・支援強化パッケージ』とはどのようなものか、概要を次回書いていこうと思います。

①106万円の壁とは
②106万円の壁で減少する手取り額とメリット
③130万円の壁とは
④130万円の壁で減少する手取りとメリット

①106万円の壁とは

 106万円の壁とは特定適用事業所(現在は常時使用する従業員が101人以上の事業所、今年10月からは51人以上となります。)または任意特定適用事業所(事業主が被保険者の同意を受けて特定適用事業所になった事業所)に勤められているパートさんやアルバイトさんが一定条件を満たすと社会保険(健康保険・厚生年金保険)適用となる制度の閾値となります。
一定条件とは・・・?

・所定就業時間(就業規則や労働契約書で決められた労働時間)が20時間以上であること。ちなみに30時間以上になると普通に社会保険適用になります。
・所定内賃金が月8.8万円以上であること(これはボーナスや割増賃金など含まれない賃金のあるので注意です。)
2か月を超える雇用見込みがある事。
・お昼間の学生さんではない事(定時制の学生さんや休学中の学生さんは対象になります。)

この4つを満たすと社会保険適用となり、保険料が発生してしまいます。月8.8万円×12か月で105.6万円≒106万円の壁と言われています。

②106万円の壁で減少する手取りとメリット

 では、106万円の壁で減少する手取り額を考えてみましょう。100万円を超えると税金等もかかってきますが、ここでは考慮しない事にします。
 仮に年収が107万円に上がった場合、107万円÷12か月で月収約8.9万円となります。8.9万円の月収は健康保険の等級としては4等級、厚生年金の等級は1等級の88000円級となります。佐賀県の健康保険料は10.51%、介護保険料(40歳以上の方は介護保険2号保険者となり、保険料が発生します。40歳未満の方は発生しません。)は1.82%となり、これを労使で折半することになります。また、厚生年金の保険料は18.3%で、これも労使折半です。

健康保険料   88000円 × 10.51% ÷ 2 = 4624円
介護保険料   88000円 ×  1・82% ÷ 2 =  801円
厚生年金保険料 88000円 ×  18.3% ÷ 2 = 8052円
(50銭以下切り捨て、50銭超切り上げ)
合計13477円(40歳未満は12676円)

と・・・毎月13477円の健康・厚生年金保険料を支払うことになります(もしくは12676円)。年間で考えると161724円(もしくは152112円)、16万強(15万強)の保険料を支払い、手取りは91万円強(92万円強)となります(税金は社会保険料を払ったことにより、壁の手前でとどまります。)。
 手取り額の減少を考えると働き方を躊躇するのもわかる金額ですね。

 では、健康・厚生年金保険に入るメリットはあるのでしょうか?これは結構あったりします。

(1)健康保険に入るメリット
被扶養者から被保険者に格上げになるので医療保障が格上げされます。

傷病手当金が貰える
 これは私傷病にかかってお仕事をお休みした場合に『協会けんぽ』もしくは『健康保険組合』から収入保障として『傷病手当金』が通算1年6か月に渡り支払われます。細かいルールはありますが、概ね給料の2/3を受け取る事が出来ます。
 お仕事をお休みしちゃうと収入が無くなっちゃいますので、傷病手当金があると安心して療養できるのではないかと思います。

出産手当金が貰える
 女性の場合・・・って男性もですが、出産は一大イベントです。特に女性の場合は母子健康の為、出産前後はお仕事をお休みされる(出産前は届け出にて、出産後は強制です。)と思います。その間、無収入となり傷病と同じように生活が不安定になってしまいます。そこで、『協会けんぽ』もしくは『健康保険組合』から産前42日(出産日含む)から産後56日までの間でお休みしてる日に対応して出産手当金が支払われます。この金額も傷病手当と同様にお給料の概ね2/3となっています(育休中の育児休業給付は雇用保険から支払われます。)。被扶養者の場合は出産手当一時金の50万円(産科医療保障制度未加入の場合は48.8万円)だけですので、かなり助かる制度となっています。

(2)厚生年金に入るメリット
・単純に将来頂ける厚生年金額が増えます。
 これは平均標準報酬額(上記社会保険の厚生年金等級(標準報酬月額と言います。)にボーナスを月割りし、合計したもの)に一定の乗数と月数を掛けて厚生年金額が決まりますので、単純に厚生年金加入期間が増えれば、将来頂ける厚生年金金額が増えます。
 例えば、上記等級(8.8万円級・ボーナスなし)で1か月厚生年金に加入した場合・・・

88000円 × 0.5481%(平成15年4月からの乗数)× 1か月 = 約482.3円

と・・・年間約482円の厚生年金額が増える事になります。たった・・・482円?って思うかもしれませんが、1か月でお仕事を辞める方は少ないと思います。これが1年、5年、10年と続いた場合は・・・それぞれ5800円弱、28900円強、57900円弱とチリツモ的にそれなりの年金増加が見込めます。今は保険料を払って損したなぁ。って思われるかもしれませんが、老後の生活費問題が話題になる中、気づいたら結構ありがたい金額になってるかもですね!

・障害厚生年金・遺族厚生年金が受け取れる可能性がある
 人生、健康に暮らしたいものですが、病気やけがにより不幸にも障害が残ったり、亡くなってしまう場合があるかもしれません。そのような不幸に見舞われた時に、条件は他にも多くありますが、障害厚生年金、遺族厚生年期が受け取れる可能性があります。特にそのような不幸なことが起こった場合、生活が不安定になることが多いと考えられますので、年金である程度賄えれば多少の安心感は得られるのではないかと思います。

③130万円の壁とは

 130万円の壁とは上記①・②のような『特定適用事業所』ではない職場にお勤めの場合、当たってしまう壁となります。この場合、年間の収入(過去・現在・将来の収入で判断されます。)が130万円以上となった場合、配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険・国民年金に加入する必要が出てきます(60歳以上の方は180万円未満となるのですが、ここでは割愛します。)。本人が勤めている社会保険(健康保険・厚生年金)に加入ができるのであれば、①・②の状況となるのですが・・・。
 今まで配偶者の扶養として自分自身は保険料を負担しなくてよかったものが、自分で保険料を負担しなくてはならなくなり、できるだけ扶養内で収まる130万円の収入に抑えようという考え方が130万円の壁と言われています。

④130万円の壁で減少する手取りとメリット

 では、130万円の壁で減少する手取り額とメリットには何があるのでしょうか?まずは減少する手取り額を見てみましょう。

・国民健康保険
 この料率は各自治体で様々なのですが・・・医療分、支援分、介護分(40歳以上の人が対象)と3つに分かれています。
 仮に私が住んでいる佐賀県鳥栖市において130万円の収入で国民健康保険(対象本人のみ)に加入となった場合・・・

医療分・・・79000円
支援分・・・21400円
介護分・・・21700円
(所得割・均等割・平等割合計、均等割・平等割は2割軽減)

となります。40歳未満で100400円、40歳以上で122100円と10万円を超える負担増となります。

・国民年金保険
 これは月額が決まっており、月16520円(令和5年)となっています。ですので、年額に換算すると16520円×12か月=198240円と約20万円の費用負担となります。まぁ、おまとめ払いをするとすこーしだけ安くなりますけど・・・どちらにしても結構な金額です。

 この国民健康保険と国民年金の負担を合わせると国民健康保険の介護分を除いた場合でも30万円弱、40歳以上であると32万円程度の負担増となります。これは・・・私であれば意地でも扶養の範囲に留まりたいと思っちゃいますね。

 でもって、この国民健康保険・国民年金に切り替わるメリットですが・・・私なりに一生懸命考えましたが・・・探し出すことができませんでした。国民年金保険の3号被保険者(配偶者に扶養される人)であっても、国民年金は支払ったことになりますし、健康保険の被扶養者であっても窓口負担は3割(年齢によっては2割も有)、また、国民健康保険だと健康保険のような傷病手当金や出産手当金が貰えるという事もない(自治体によっては貰える可能性があるかもですが・・・)と思われます。配偶者の扶養から外れないことが大事だとよーくわかります。

 と、ここまで従来の106万円の壁、130万円の壁について書いてきました。次回は昨年10月から始まった『年収の壁・支援強化パッケージ』でどのように変わったのかを書いていきたいと思います。
 毎回、書きながら・・・私、文才ないなぁとつくづく思いますが、これに凝りなかったら次回もお付き合いくださいませ。