そのお給料カット・・・ちょっと待ってっ!

定年退職・・・長年勤めていた会社を退職するのは寂しいけれど、勤め上げたという自負を持って会社を去られる方も多いのではないかと思います。その後は悠々自適の生活を送られる・・・って、世の中そんなにあまくなーーーーいっって方も多く、嘱託社員として働かれる方も多いのではないかと思います。会社としても定年の定めは60歳でもいいのですが、現在では65歳までの雇用確保措置が義務として課せられています。その雇用確保措置というのは・・・
①65歳までの定年年齢の引き上げ
②定年制度の廃止
③希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度の導入
となっています。人手不足の昨今、①や②を選択する会社さんも増えては来ていると思いますが、多くの会社さんは③を選択しているのではないかと思われます。そこで問題となるのは・・・60歳までのお給料と60歳後のお給料の差ではないかと思われます。60歳を超えて嘱託勤務になった瞬間、責任や仕事量も減るけど、お給料が大幅に減らされたという方も多いのではないかと思われます。
そのお給料低下に対して心強い味方となってくれる給付に『高年齢雇用継続給付』というものがあります。この給付は60歳前賃金に対して、大幅に賃金を減らされた60歳~64歳までの方に雇用保険からお給料減の補填として給付を行おうという仕組みになっています。
今回、今年4月にこの高年齢雇用継続給付の給付率が変わりましたので、今回はそれを中心に書いてみたいと思います。ちょっと悲しい改正なので、あまり筆が進まない所ではありますが・・・。
①高年齢雇用継続給付金って?
②今年3月まではどうだったの?
③今年4月からはどうなるの?
④どのように申請するの?
⑤この改正に伴って他に影響はないの?
⑥実際、どの程度の変わっちゃうのかなぁ。
また、一旦定年退職をして失業保険を一部受け取った後、再就職し、お給料が低下した場合に給付される『高年齢再就職給付金』や65歳からの雇用確保の努力義務等のお話は今回のお話とちょっとズレちゃいますので、省いちゃいますね。
①高年齢雇用継続給付金って?
これは上で書いたように60歳定年制により、60歳から嘱託勤務などになり、大幅にお給料が下がった場合、雇用保険から給付金を支給しよう・・・と言った制度となっています。ただ、その支給には条件があって・・・次の様になっています。

1.雇用保険に5年以上加入している事(5年に満たない時は、5年に到達した以後の支給になります。)。
2.お給料が60歳前のお給料の75%未満に低下している事。
3.支給対象付の初日から末日まで被保険者である事。
4.支給対象付に支払われたお給料額が支給限度額未満である事。
5.申請後、算出された基本給付金の額が、最低限度額を超えている事。
6.支給対象月の全期間にわたって、育児休業給付又は介護休業給付の支給対象でない事。
まぁ、5年以上被保険者であって、その月まるっと被保険者でお給料が極端に高かったりしなくて・・・雇用保険から他の給付を頂いてなかったら、お給料低下時に給付金が頂けるという事ですね。この中で4番のお給料の支給限度額は376750円、5番の支給最低限度額は2295円となっています。まぁ、この金額は毎月勤労統計の平均定期給与額で決まってきますので、今年8月にはもうちょっと増える事になるのではないかと思います。ちなみに・・・ギリギリお給料の支給限度額を超えない場合は、お給料と給付金を足して限度額になるまで・・・つまり限度額からお給料を引いた分が支給されます。
また、1番のかっこ書きである5年に満たない云々のイメージは次の図の様になっています。

厚生労働省『令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します』より
でもって、おいくら給付金として支給されるのか・・・って話になるのですが、これが今回変更になっています。次とその次の章で書いていってみたいと思います。
②今年3月まではどうだったの?
で、今年の3月までなのですが・・・お給料が75%未満になったらこの『高年齢雇用継続給付金』が支給されるのですが、その計算方法は次のようになっていました。あっ、ちなみにこの『今年3月まで・・・』というのは今年の3月までに支給条件を満たした人って意味です。今後、曖昧な表現もありますが、そのように読み取ってくださいね。

・75%以上お給料が支給されている場合
支給されません。
・61%超75%未満お給料が支給されている場合
支給率 = (-183 × お給料低下率 ÷ 13725) ÷ 280 ÷ お給料低下率 × 100
※お給料低下率は60歳前賃金の何%お給料を頂いているかです(適切な言葉が思いつきませんでした💦)。
・61%以下へお給料が減ってしまった場合
実際に支払われたお給料額 × 15%
一番上と一番下は給付がないか、もしくは最大額ですので、分かりやすいものの、その中間帯である真ん中の計算式はむっちゃ分かりにくいですね。私も計算式を書いていてよくわかりませんでした💦
こんな時は実際に数値を当てはめて見なくっちゃ・・・
という事で、60歳前のお給料を30万円、60歳からのお給料を21万円と仮定した場合、お給料の低下率は70%だから・・・
支給率 = (-183 × 70 + 13725) ÷ 280 ÷ 70 × 100 = 4.6683%
となり、小数点第3位を四捨五入して4.67%の支給率となります。ですので、金額ベースで考えると、『21万円×4.67%』の9807円・・・つまり1万円弱の支給額となります。
この高年齢雇用継続給付金を知っている会社さんでは、この給付金の最大化を指標として・・・60歳到達時賃金の60%を目途にお給料を減額して、嘱託勤務のお給料を決定している所も多いのではないかと推測されます。上の例で行けば、30万円だったお給料を18万円へ減らして、その15%である27000円を高年齢雇用継続給付金で受け取り、実質20.7万円がお給料相当になると言った感じでしょうか。
でも、今回の改正でちょっとばかり計算が変わってきますので、注意が必要になります。
③今年4月からどうなるの?
では、今年の4月からはどの様に変わるのでしょうか?
あっ、これも受給要件を今年4月以降に満たした方と思ってください。今後、曖昧な表現が増えそうですので、そんな感じで思ってくださいね。
今年の3月までの最高支給率はお給料61%以下への低下で15%支給だったものが・・・お給料64%以下の低下で10%の支給となっちゃいます。まぁ、将来的にはこの高年齢雇用継続給付金自体を無くそうという流れになっているので・・・それに沿った動きとなりますね。
という事は、お給料が75%未満に減ってしまったときに支給されることは変わらない(支給率はともかく、支給対象になるかどうかは・・・)のですが、支給率の最大化となるのは『61%→64%』と3%上昇することになります。その支給率ですが、次のようになります。また、中間値がめんどい計算式になっています。

・75%以上お給料が支給されている場合
支給されません。
・64%超75%未満お給料が支給されている場合
支給率 = (-64 × お給料低下率 + 4800) ÷ 110 ÷ お給料低下率 × 100
※上と同様、お給料低下率は60歳前賃金の何%お給料を頂いているかを表わしています。
・64%以下へお給料が減ってしまった場合
実際に支払われたお給料額 × 10%
めんどい計算式の時は数値を当てはめてみるに限る・・・って事で、今回も数値を当てはめてみたいと思います。60歳前のお給料が30万円で・・・60歳以降のお給料が21万円に低下した場合・・・って前回と同じ条件だ💦。
支給率 = (-64 × 70% + 4800) ÷ 110 ÷ 70% × 100 = 4.1558%
となります。小数点第3位を四捨五入して『4.16%』になるのですね。金額的には『21万円×4.16%』の8736円の支給となります。うーん、やはり同じ賃金低下率であっても、若干支給金額が減っちゃうんだなぁ。ちなみにこの計算式ですが・・・%なのに実数である70で計算するのがなんかしっくりとこない・・・。
と、手計算したものの、実際は厚生労働省のホームページに0.5刻みの早見表があったりします。

厚生労働省『令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します』より
うーん・・・ものすごくおっきな金額変更とはならないかもだけど、多少老後の生活設計が変わっちゃいそうですね。
④どのように申請するの?
上記の様に若干の改悪となった高年齢雇用継続給付ですが、どのように申請するのでしょう。
この申請は基本的に会社さんが行いますので、個人的に行う事はないとは思いますが、個人で申請してもいい事になっています。提出先は所轄のハローワークとなっており、必要書類は以下の通りです

1.初回
・提出書類
高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
払渡希望金融機関指定届
(ハローワークHPには書いてありますが、これはこの年齢雇用継続給付資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書についてきますので、実質出さなくても大丈夫です。)
・添付書類
雇用保険被保険者60歳到達時等賃金証明書
(60歳時の賃金を証明する書類です。)
支給申請書と賃金証明書の記載内容を確認できる書類
(賃金台帳や労働者名簿、出勤簿など)
被保険者の年齢が確認できる書類等
(運転免許証、住民票の写し。ただし、マイナンバーを届け出ている人は省略可)
2.2回目以降
・提出書類
高年齢雇用継続給付支給申請書
(初回が無くなっていますね。初回より若干シンプルですが、似た感じです。)
・添付書類
支給申請書と賃金証明書の記載内容を確認できる書類
(賃金台帳や労働者名簿、出勤簿など)
被保険者の年齢が確認できる書類等
(運転免許証、住民票の写し。ただし、マイナンバーを届け出ている人は省略可)
1回目の申請は最初に支給を受けようとする支給対象月(受給要件を満たし、給付金の支給の対象となった月)の初日から起算して4か月以内に申請し、2回目以降はハローワークから交付される『高年齢雇用給付次回申請日指定通知書』に印刷された期日までとなっています。まぁ、2か月に1回申請することになりますので、そのくらいの間隔で申請していく事になります。
⑤この改正に伴って他に影響はないの?
さて、この最大15%から最大10%へと減らされちゃった高年齢雇用継続給付ですが、この減少に伴って変わった事ってあるのでしょうか・・・。
実は・・・あったりします。
この変更される制度自体は今回の改正前からあったのですが、『高年齢雇用継続給付』が支給されると・・・65歳前の老齢厚生年金が減らされちゃうという調整が行われていました。この年金にはあと数年で終わる『特別支給の老齢厚生年金』はもちろんですが、『繰り上げ支給の老齢厚生年金』も含まれますので注意が必要です。
では、実際どの程度減額されるのかというと、今年3月までに給付対象となった方(今、4月ですので、すでに申請されている場合ですね。)の場合は、雇用保険からお給料の最大15%支給され、厚生年金が標準報酬月額(厚生年金保険料納付のランクみたいなもの)の最大6%が支給停止となってしまいます。これが今年4月以降に給付対象となった方の場合(これから高年齢雇用継続給付を申請される方)においては雇用保険からお給料の最大10%が支給され、厚生年金が標準報酬月額の最大4%支給停止となっちゃうことになります。
まぁ、対象となる『特別支給の老齢厚生年金』は男性の方や共済(公務員や私学で共済年金の方)の女性の方は今年4月1日までに64歳になった方で終了していますので、残りは普通の厚生年金で昭和41年4月1日以前に生まれた女性の方のみが対象となります。
ちなみにこの『特別支給の老齢厚生年金』という制度は老齢年金が60歳から支給だったものが65歳からの支給に変更になった時の緩和措置として、段階的に65歳支給にするための措置となっていて、今年4月2日からは63歳の普通の厚生年金に加入されていた女性が2年間この年金を貰える状況となっており、段階的に全員65歳からの支給になっていきます。
うーん、雇用保険からお金がもらえて、年金が減らされる・・・増えたり減ったり忙しくて混乱するのですが、中間帯(今年3月までは75%未満~61%超、今年4月からは75%未満~64%超)の場合はどんな感じで減らされるのでしょう。残念な検索能力しか持たない私には計算式を発見することはできませんでしたが、早見表は発見できました。こんな感じになるみたいです。


厚生労働省『高年齢雇用継続給付の内容及び給付申請手続きについて』より
と・・・なっています。左が今年3月まで、右が今年4月からの早見表となっています。まぁ、お給料低下率が上がると雇用保険からの給付率は上がるけど、厚生年金の停止率も上がる・・・って感じですね。
具体的にはどの様になるかというと・・・今年4月以降の申請で、仮に60歳時のお給料が30万円、その後のお給料が18万円の場合で、特別支給の老齢厚生年金の基本額が120万円(月10万円)の場合を考えてみたいと思います。

①まずお給料の低下率は『18万円÷30万円』の60%なので、高年齢雇用継続給付金は・・・
18万円 × 10% = 1.8万円
と、雇用保険から18000円の給付が行われます。
②次に18万円のお給料の標準報酬月額は18万円級(17.5万円~18.5万円)ですので、4%の減額となると・・・
18万円 × 4% = 7440円
の減額が行われます。
③という事はトータルでは・・・
18万円(お給料) + 1.8万円(高年齢雇用継続給付) + (10万円 - 7440円)(特別支給の老齢厚生年金) = 290560円
となり、特別支給の老齢厚生年金含め、29万円強の収入となります。
なんか・・・増やしたり減らしたり・・・複雑ではありますが、あと数年はこの複雑さは付きまとうのかなぁと思います。
⑥実際、どの程度の変わっちゃうのかなぁ。
と・・・このような変更があった高年齢雇用継続給付ですが、これからも今まで通り、60歳退職後のお給料を60%に減少した場合、給付金も合わせて、どの程度収入は変わるのでしょうか?簡単に計算したいと思います。
前提として、60歳時お給料30万円が18万円に低下した場合を見てみたいと思います(厚生年金はまだ頂いてない前提です。)

①今年3月までに給付条件を満たした方
給付金 = 18万円 × 15% = 2.7万円
18万円(お給料) + 2.7万円 = 20.7万円
②今年4月以降に給付条件を満たした方
給付金 = 18万円 × 10% = 1.8万円
18万円(お給料) + 1.8万円 =19.8万円
③差額
20.7万円 - 19.8万円 = 9000円
と・・・なります。9000円・・・それほどおっきな金額ではないとも思えますが、これが5年間毎月続くと考えると・・・54万円っ!
結構な差になってくるのではないかなぁと思います。そこで、お給料カットをすこーしだけ、思いとどまってもらって・・・今回の最大給付率はお給料が64%以下に落ちたときですので・・・退職後のお給料を60歳時お給料の64%である『19.2万円』にすると、給付金は・・・
19.2万円 × 10% = 1.92万円
となり、収入月額は・・・
19.2万円 + 1.92万円 = 21.12万円
となります。若干のお給料原資を使ってしまいますが、お給料を現状より4%上げる事で、月額収入額が総額で今年3月までより4000円強上がる事になります。何とか、高年齢雇用継続給付率の低下分を賄う事ができるのではないかなぁと思っちゃったりします。ですので、現在、退職後の嘱託勤務の際に60%までお給料を減らしている会社さんにおいては、64%に上げてくれないかなぁ・・・と思う次第です。
さて、今回は残念ながら、高年齢雇用継続給付の改悪がありましたので、ブログで書いてみました。これにおいては1回1回においては大きな金額ではないものの、60歳から65歳まで5年間も続く給付となっています。この額が減額されることは60歳で定年となり嘱託勤務、給料低下となる方にはかなりの痛手になると思います。ですので、事業者の方!60歳超えたからと言ってお給料を減らすのを一旦留まってもらえないかなぁって思う次第です。
上で書きましたが特にこの改悪前は61%以下へのお給料減額で15%と最大額が支給されていたこともあり、定年を機にお給料を60%に減らしていた会社さんも多かったのではないかと思います。今回の改悪で64%になりますので、その辺を考慮して・・・というか、この人手不足の昨今、60歳~65歳はまだまだ現役ですっ!しっかりとお給料を支払って、責任あるお仕事をしてもらい、会社の発展に貢献してもらいましょー。
っと、今回のお話はここまでなのですが、一つだけ注意点が・・・それは今回の改悪があったからではなく、その前からなのですが、この高年齢雇用継続給付金を貰いながら年金の繰り上げ支給を行うと・・・年金が減らされてしまいます。様々な経済事情があるものと思いますが、出来れば、この給付金を頂いている間は繰り上げ支給を選択せず、出来るだけ年金の減額期間を少なくした方がいいのではないかなぁと思います。
最後に今回のお話に関係ありそうなリンクを貼っておきますね。
厚生労働省『令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します』
厚生労働省『高年齢雇用継続給付の内容及び給付申請手続きについて』
日本年金機構『年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整』
日本年金機構『特別支給の老齢厚生年金』
全国健康保険協会『令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)』
今回も乱筆乱文、失礼しましたっ。