2024年問題について・・・建設業編
さて、前振りがものすごく長くなってしまいましたが、ここからが2024年問題のお話となります。2024年問題とは前回のブログで紹介させてもらった『働き方改革関連法案』の内、労働時間短縮(36協定)措置を猶予された事業が4つあり、それらの猶予期間が2024年4月で切れる事によるものとなっています。
それらの4事業とは『工作物の建設の事業』、『医業に従事するお医者さん』、『自動車運転の業務』、『鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業』となっています。この中において、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業においては収穫期や圧搾期と言った繁忙期が集中するため、月100時間、2~6か月における80時間の時間外労働・休日労働規制が猶予されていましたが、今回の猶予期間終了によって、すべての時間外労働・休日労働規制が適用されますので、今回は割愛したいと思います。
で、今回は建設業(工作物の建設の事業)の猶予後の取扱いと『無い頭で考えた私なりの課題』を書いていきたいと思います。
①工作物の建設の事業(建設業)の猶予終了後の取扱い
②工作物建設の事業(建設業)の課題
①工作物の建設の事業(建設業)の猶予終了後の取扱い
まず、この工作物の建設の事業に入る範囲としては次の様になっています。
1.土木、建築その他の工作物の建設、改良、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
2.事業場の所属する企業の主たる事業が上記1.に掲げる事業である事業所における事業
3.工作物の建設の事業に関する警備の事業(当該事業において労働者に交通誘導の業務を行わせる場合に限る。)
という事は土木・建設の会社のみではなく、その警備の事業も入ることになりますので、注意が必要です。これは主に施設の警備を行っている事業所においても、主として工事等の交通誘導を行っている従業員さんがいる場合は、個別で対象となります。ちょっと細かい話なのですが、対象となる交通誘導の従業員さんがいて、災害復旧時の交通誘導を行う可能性がある場合、施設の警備を行っている方とは別に36協定を結ぶ必要があります。
で、どのように変わるのかと言うと、原則的には通常の36協定(特別条項があれば特別条項付きの36協定)となり、他の事業者さんと変わらなくなります。ただし、災害の復旧及び復興の事業の場合、(あらかじめ36協定に定めておけば)単月100時間未満、2~6か月平均で月80時間以内の規制は適用されません。ですが、特別条項で定める、月45時間以上の残業は年に6か月までという規制は残ります。不謹慎な話で、能登の方には申し訳ないですが、あのような災害が起こった場合においては、単月もしくは複数月の上限規制は適用しないという事になるのですね。ただし、一時的なものという事で、年6回までという制限自体は残るという事みたいです。速やかな復旧・復興が必要ですので、残業時間が伸びるのは辛いですが、頑張ってもらう必要がありそうです。
また、労働基準法には『非常時災害時の残業時間』に対する条項があり、『災害その他避ける事ができない事由によって、臨時の必要がある場合には、使用者は法定の時間を超えて、また、法定の休日に労働させることができる』・・・となっていますが、これと今回の『復旧・復興の事業』とは別のものとなっています。ですので、また例示して不謹慎ではありますが、上記の能登震災の場合で、インフラ等、ライフラインの復旧などにおいてはどちらが適用されるか確認しながら行う方がいいのではないかと思います。
②工作物の建設の事業(建設業)の課題
建設業における2024年問題の課題としては『人手不足と後継者問題』、『長時間労働の慢性化』、『ITツールの活用の活性化』、『技能制度の活用』などが挙げられると思います。
1.人手不足と後継者問題
少子高齢化時代へ進んでいくと共に建設業においても・・・いや、建設業においては特に人手不足が進んでいます。
少子高齢化の影響ですが、建設業においては全業種と比べ、高齢者の比率が高く、若者の就業率が低い状況となっています。下の図は全業種と建設業における29歳以下人口と55歳以上人口の推移となっていますが、直近においては高齢者比率が5ポイント弱多く、若年層比率は逆に5ポイント弱低くなっていることが分かります。なかなか若年層の流入がなく、高齢者に支えられている将来的に厳しい状況となっていることが分かります。
一般社団法人日本建設業連合会『建設業デジタルハンドブック』より
また、後継者問題としては若干改善傾向にあるものの、建設業の後継者不在率は60.5%と依然全業種中一番高くなっており、この状態が続くのであれば、将来的な人手不足に拍車をかける事になりかねません。ただ、改善傾向は続いていますので、この調子で改善すれば、後継者不足による廃業と言った事態は少なくなりますので、ぜひ、この傾向が続いて欲しいものです。
帝国データバンク『全国企業後継者不在率動向調査(2023年)より
このように高齢者に支えられている傾向が強く、また、後継者問題も抱えている状況となっている建設業界においては、今後においてもかなり厳しい状況が続くことが想定されるのではないかと考えられます。ですので、若者に魅力的な職場環境を作り、そこに集まってくれた若者から次世代の建設業を支え、また、後継者候補を作っていく必要があるのではないかと思います。
2.長時間労働の慢性化
建設業においてはどうしても工期というものが定められ、また、タイトな工期は従業員さんの長期間労働に繋がっていきます。当然、発注者においてはいち早く竣工させ、建物等の収益化を図りたいという気持ちは分かるのですが、今後においては無理な工期指定を避け、現場の皆様が余裕を持って働ける環境作りに協力する必要が出てくるのではないかと思います。下の図は建設業・製造業・全業種の年間労働時間を表わしたグラフとなります。若干改善傾向は見られるものの、依然として建設業は高い傾向が見られます。
一般社団法人日本建設業連合会『建設業デジタルハンドブック』より
これには工期問題に加え、現場への移動時間・確認時間も長時間労働に関係するのではないかと考えられ、特に長時間労働が問題とされる現場監督の方は事務作業も多く、一日の工事終了後に事務作業をこなし、残業が増える事も要因となっています。これに対してはできるだけ現場に出る日数・時間数を減らす(ドローンやウェブカメラ等を使った状況確認や工場内生産部分を増やすなど)事により、作業終了後の書類作業が軽減され、改善が図られる可能性があります。今後の技術革新やその応用に期待したいところです。また、事務補助者を作ることにより、事務作業自体の軽減を図るのも手かもしれません。
また、労働時間と同様に就業日数においても建設業は高い状況となっており、これも長時間労働と同様に改善傾向にはあるものの、下のグラフの様に直近のデータでは製造業よりも14日、全業種よりも29日多い状況となっています。これにおいては全くの私の感覚ではあるのですが、近所の道路工事で『週休2日での作業を行っています。』と言った立て看板を見る事も多く、改善の意識がしっかりと出てきているのではないかと思います。これは公共工事においては『週休2日工事・週休2日交代制モデル工事』が推進され、実施されている自治体が増えている事によるものです。民間工事にも広がっていく事を期待したいですね。
やっぱり、しっかりとお休みが取れる職場の方がいいですもんね。
一般社団法人日本建設業連合会『建設業デジタルハンドブック』より
3.ITツールの活用の活性化
これはどの業界でも活用を模索している状況だと思います。IT・IoT・ICT・DX・・・と、デジタル技術は日進月歩の状態です。当然、建設業界においても活用を進めている状態だと思われます。ただ、年齢別就業率で見た通り、建設業においては高齢化が進みつつある状態となっています。悲しいかな・・・私も最近そうなのですが、最新のITツール、ガジェットを使いこなすことができなくなってきています。これは私だけではなく、高年齢特有の事象と信じたいところですが、もしそうであれば、難しい操作性を持ったITツールを使いこなすのは他業界よりも難しいかもしれません。ですので、如何にIT技術を活用した効率的な業務体制を整えるかも重要ですが、分かりやすい(高年齢者にも使いやすい)操作性で効率的にできるかを考える必要があるかもしれません。
4.技能制度の活用
これは残業時間解消とは直接関係はないのですが、建設業には国土交通省が進めている『建設キャリアアップシステム(略称CCUS)』というシステムがあります。これは『技能者を保有資格、社会保険加入状況や現場の就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積して活用する仕組み』で、技能者の能力評価によって1~4までのレベルが存在します。このレベルが上がるとお給料が上がる傾向が見られ、若者のキャリアパスとして利用できるのではないかと思われます。技能レベルが上がればお給料が上がる、目に見える目標があれば、若者にとっても魅力に感じるのではないでしょうか。これの普及させ若い方に訴求ができれば、建設業の高齢化問題の解決の一助になると同時に、技術が上がればお給料にも影響するというモチベーション向上と同時にお給料という重要な待遇の上昇にも繋がるのではないかと思われます。
このような問題が考えられる建設業ですが、発注者が竣工を急がない、元請さんが下請さんに無理な工事日程を組まない(もしくは土日は現場を閉じるなどの措置を取る。)、なるべく現場に出て確認しなくても工事が進む技術の発展、分かりやすくシンプルなデジタルツールにより、従業員さんが使いこなせる効率化を進める、お給料上昇要因の見える化などを行う事が進展すると建設業のイメージ良化にも繋がり、ひいては若年層の流入も期待でき、課題克服に繋がると思います。
私も工事が長引いてるなぁとイライラすることなく、夏は酷暑の中、冬は寒さで凍えながら作業される建設業の従業員さんの事を想い、頑張ってインフラ等を整えてくださることを感謝しながら、工事現場を通りたいと思います。
最後に厚生労働省の建設業の働き方改革特設サイトのリンクを置いておきますね。
厚生労働省『適用猶予業種の上限規制特設サイト 建設業』
今回も乱筆乱文失礼しましたっ!
次回はお医者さん編となります。