労働条件通知書・・・準備OK!?

 今年の4月1日から労働条件明示のルールがすこーしだけ変わります。それに伴い、労働条件通知書の内容が少し変わってきます。そこで、今回は労働条件通知書とはどのような内容なのか?また、今回の変更においてどのように変わるのか?を簡単にですが見ていきたいと思います。

①労働条件通知書とは?
②従来の絶対的明示事項とは?
③相対的明示事項とは?
④今回追加される事項とは?

①労働条件通知書とは?

 労働条件通知書とは・・・読んで名の通り労働条件を示した書類となります。
 通常、仕事を始める時、自分の労働条件が分からないと怖くて働けないですよね?これが曖昧だと安心して働けませんし、後々のトラブルの元になりかねません。そこで、使用者には雇用契約を締結すると同時に労働条件通知書を交付することが義務付けられれています。これは書面で交付することが基本となりますが、従業員となる方が希望した場合はFAXやメールなどでの交付も可能となっています(ただし、印刷して書面を作成できる形式に限られ、メール本文やLine本文等では不十分ですので、通常PDFなどを添付します。)。これはあくまでも従業員になる方が望んだ場合に限りますので、一方的にメールで送る事は禁止されていますので注意です。

 また、労働条件通知書に似ているものとして雇用契約書があるのですが・・・労働条件通知書はどのような内容で働いてもらうか明示する書面であり、労働契約書は文面の内容で労働する事、そしてお給料を支払う事を約する書類となります(労働契約書の取り交わしは義務ではありませんが、トラブルを避ける為にも取り交わしておいた方が無難だと思います。)。ですので、労働条件通知書は従業員となる方に明示、交付するだけですが、雇用契約書は使用者と従業員になる方が共に記名押印したものを2部作成し、お互いに保存する形となります。この2つの書類は内容的にも似通っていることもあり、『労働条件通知書兼雇用契約書』として書類を作るパターンもあります。まぁ、この方が書類も少なくて済みますし、いいのではないかと思います。
 労働条件を明示するタイミングとして考えられるのは、時期が早い順に書くと・・・

・求人募集の時
 これは労働条件通知書とは違いますが、求人募集に給与や労働時間を記載しないことはないでしょう。ただ、紙面(スペース)の関係上、必要事項のすべてを記載することが難しい事もありますので、給与や労働時間など基本的なことを求人雑誌等に記載し、求人に応募があった場合は、改めて詳しい労働条件を明示する必要があります。

・新卒者等の内定時
 内定通知・・・懐かしいなぁ。って、私自体が学生だった遠い昔、労働条件通知書とか内定通知書とかって・・・あまり深く考えてなかったような気がします。学生さん(って、学生さんで読んでる人はいなさそうだけど・・・)はしっかり目を通してくださいね。
 学生さんなどに内定通知書を出す場合は、一緒に労働条件を明示する必要があります。また、アルバイトはあっても正式に会社に入社するという事は初めてで、不慣れな事もあると思いますので、丁寧に説明し、入社後の誤解がないようにする必要があると考えられます。しっかりと意欲的に育ってもらって、会社を支える人財になってもらうためにも、誤解からの相互不信などに陥らないように説明しましょう。

・従業員の方が入社する時
 これが普通に考える労働条件通知書の交付タイミングではないでしょうか。入社時には速やかに労働条件通知書を交付し、説明することにより、後々のトラブルを防ぐようにしましょう。

・有期雇用契約の更新時もしくは労働条件変更時
 パートさんなどの有期雇用契約で働いてらっしゃる方の更新時には労働条件通知書を忘れずに交付し、変更点もしくは変更がない旨を説明しましょう。稀に労働条件通知書を交付せず、なぁなぁで更新してしまう(労務管理がしっかりしていない中小企業に多い感じです。)場合も見られます。これは労基法違反となりますし、働く人との信頼関係にも関わります。同条件での更新の場合でも、しっかいりと労働条件通知書を交付する様にしましょう。
 また、労働条件変更時(お給料UPなど)の時も、変更後の労働条件通知書を交付する様にしましょう。

②従来の絶対的明示事項とは?

 労働条件の明示には必ず明示しないといけない絶対的明示事項と定めがある場合に明示しないといけない相対的明示事項があります。ここでは絶対的明示事項の中身を見ていきたいと思います。
 絶対的明示事項には『契約期間』、『期間の定めのある場合の更新基準』、『就業場所・従事する業務』、『始業・終業時間・休憩・休日・休暇』、『賃金の決定方法・支払時期・昇給など』、『退職(解雇の事由含む)に関する事』となっています。これらについては必ず書面で明示する必要があります。

・契約期間について
 これは期間の定めのない契約なのか、3か月や半年、1年などの期間の定めのある契約なのかの定めるものです。通常、正社員の場合は期間の定めがない契約が一般的となっており、パートさんなどは半年や1年といった期間の定めのある契約が一般的ではないでしょうか。
 期間の定めがある場合は、いつからいつまでかを明示します。ただし、通常の期間の定めのある契約の場合(一部例外はありますが)は、3年を超える契約はできません(最長3年まで)。また、非常に短い期間を多回数更新することは働く人を不安にもさせますので、避けた方がよいでしょう。ただ、期間の定めのある雇用の場合、期間途中の解雇について、通常の雇用よりかなり厳しい条件となりますので、1年程度を目安にするのがいいのではないかと思われます。

・期間の定めのある場合の更新基準について
 通常、期間の定めを決めた場合でも、更新することが多いと思います。そこで、どのような場合に更新するかをあらかじめ明示する必要があります。例えば・・・契約満了時の業務量の増減や、勤務態度・能力、経営状況等です。雇用契約を結ぶ時にこれらを明示したうえで、期間満了の少なくとも30日前には更新の有無を書面で通知する様にしましょう。更新をしない場合は、これより遅くなると予告義務に違反する場合もありますし、働いている方も準備が必要です。早めの通知を心掛けるようにしましょう。
 ここにおいては今年の4月から変更というか追加事項がありますので、後程書いていきます。

・就業場所・従事する業務について
 これはどのような場所で、どのような業務に従事するかを明示します。例えば、鳥栖本社で事務のお仕事とか、鳥栖営業所で営業のお仕事・・・などなどです。テレワークなどを導入する場合は『自宅もしくは会社が指定した場所』などになります。また、そのメインの仕事以外の仕事(雑用?)などもありますので、総合職なら『その他会社が指示するすべての業務』、限定職やパートさんの場合は『その他これ(メイン業務)に付随した業務』と付け加えるのが一般的です。
 これに関しても今年の4月から若干の変更点というか追加事項ができましたので、後述しますね。

・始業・終業時間・休憩・休日・休暇について
 これは働き方の基本ですので、始業・終業・休憩時間・・・例えば『始業8:30~終業17:30、休憩12:00~13:00の1時間』などです。休憩に関しては一日の就業時間が6時間を超える場合は45分間、8時間を超える場合は60分間を必ず取るようにしなくてはいけません。また、変形労働時間制を導入している場合は基本的な始業・就業時間と適用日の組み合わせを明記します。シフト制の場合は『シフト表による』と書いても問題ないかもしれませんが、『具体的な勤務日時はシフト表により、いつの分をいつまでに通知する』(例えば25日までに翌月分を通知する)とシフトの種類と一緒に明示すると働く方も安心できて、いいのではないかと思います。
 また、ここでは残業の有無も明示する必要がありますので、残業がある場合は『残業有』と明示しておきましょう。大体の月残業時間が分かっている場合は何時間程度あるのか(月間10時間程度など)を書いておくと働く方も安心できるのではないかと思います。
 休日・休暇については会社のお休みの日(例えば土曜・日曜・法律で定める国民の休日、お盆休み、お正月休みなど)を明示します。また、有給休暇についても明示しておきます。有給休暇については所定労働日数が少ないアルバイト、パートさんにおいても比例付与で有給休暇が付与されますので、しっかりと明示、説明し、有給休暇を利用しやすい職場環境の醸成に心がけましょう。

・賃金の決定方法・支払時期などについて
 これは月給制なのか、日給制なのか、それとも時給制なのか・・・。また、その金額はいくらなのかを明示します。そのうえで、通勤手当や職務手当、家族手当などがある場合は、それがいくらになるのかを明示しましょう。また、それに合わせて、法定外(所定外)労働、休日出勤、深夜手当の割増割合も明示します。
 支払時期においてはいつ締めのいつ支払いか(例えば、月末締めの翌月15日支払い等)を明示します。
 また、パートさんには昇給・賞与の有無の明示が義務付けられていますが、正社員雇用の場合も、昇給月・賞与月も合わせて明示した方が働く方の不安が和らぐのではないかと思います。

・退職(解雇の事由含む)に関することについて
 自己都合退職に対するルールや解雇事由について明示します。自己都合退職の場合、民法上においては14日前に退職予告を行えばいい事になっていますが、引継ぎや後継者問題等を考えると、ある程度時間が欲しい所です。ただ、長く設定しすぎると退職の事由を制約していると取られる可能性もありますので、1か月程度が妥当だと思われます。
 解雇においては就業規則の条項を記載するのが一般的なのですが、就業規則の対応部分を同時に交付し、説明を行うと、働く方がどのような働き方をすべきなのか、何をしてはならないのかを理解することに繋がりますので、誤解が少なくなるのではないかと思います。

 これ以外にパートタイムや有期雇用で働く方には『昇給の有無』、『退職手当の有無』、『賞与の有無』、『相談窓口はどこか?』、を書面で明示する必要があり、『不合理な待遇の禁止』、『通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取り扱いの禁止』、『賃金」、『教育訓練』、『福利厚生施設』、『通常の労働者への転換』に対する雇用管理の改善に関する措置の内容を説明する必要があります。

相対的明示事項とは?

 次に相対的明示事項についてです。これは定めがある場合は必ず記載しないといけない項目で、定めがない場合は記載する必要がありません。また、絶対的明示事項は書面での交付が必要であるのに対し、相対的明示事項は口頭でも大丈夫です。ちなみに今回の変更で相対的明示事項には変更はありません。
相対的明示事項の内容ですが・・・

・退職金の定めのある労働者の範囲、計算、および支払方法、時期について
・臨時に支払われる賃金(退職金除く)、賞与その他これに準ずるもの、最低賃金について
・労働者に負担させる食費、作業用品について
・安全及び衛生に関することについて
・職業訓練に関することについて
・災害補償及び業務外の疾病扶助について
・表彰および制裁について
・休職について

となっています。これらの内容については口頭でも大丈夫ですので、割愛しますが、就業規則等を活用し、入社時にしっかりと説明すると、将来のトラブル等を避ける事ができるのではないかと思います。

④今回追加される事項とは?

 前置きが長くなりましたが、今回変更となるのは次の点となります。

                                                     厚労省HPより

 今回の変更点は表のとおり3点となります。1つはすべての従業員さんに関係することで、2つは有期契約の従業員さんに関わる事となっています。それぞれについてみていきましょう。

1.就業場所・業務変更の範囲
 これはすべての従業員さんに明示する必要がある事項です。今まででも従業員さんの就業場所、業務内容を明示する必要がありましたが、これはあくまでも就業開始時の就業場所と業務内容でした。多様な働き方が推進される現在において、地域や業務を限定して働く方も増えてきています。そこで、将来的な就業場所がどの範囲なのか?また、どのような業務に就く可能性があるのかを労働条件通知書で示す必要があります。
就業場所の例としては・・・

就業場所→鳥栖支店 変更範囲→会社が定める本社・支店・営業所(限定がない社員さん)
就業場所→鳥栖支店 変更範囲→佐賀県内の支店・営業所(地域限定の社員さん)
就業場所→鳥栖支店 変更範囲→鳥栖支店(就業場所固定の社員さん)

などなど・・・です。同様に業務内容においては、今後活躍が期待される業務を羅列することになります。
例えば・・・

業務内容→営業の業務 変更範囲→会社内でのすべての業務(限定がない社員さん)
業務内容→販売の業務 変更範囲→販売、店舗運営の業務(店舗内業務に限定する場合)
業務内容→事務の業務 変更範囲→事務の業務(変更を予定しない社員さん)

という風になります。就業場所においてはテレワーク等を導入する場合はその旨も、業務内容においては出向などが想定される場合はその事も明記しておく必要があります。

2.更新上限の有無と内容
 これは有期契約の従業員さんに関する事です。有期契約の従業員さんを雇用する場合、その契約の期間を定め、労働条件通知書において明示する必要があったのですが、会社の状況、従業員さんの働きぶりを考慮し、更新を行っていくものと思います。この更新に上限を付ける場合は、労働条件通知書で明示する様に変更されました。
例えば・・・

『更新回数は4回までとする』
『契約期間は通算3年までとする』

などです。
 また、現に働いていらっしゃる従業員さんに上限を新たに設定する場合においては、上限を設定する前にしっかりと説明し、納得してもらってから上限を設定する必要があります(これは不利益変更の問題が発生する可能性もあり、正当な理由がある場合のみ慎重に行う必要がありそうですが・・・)。その後の労働条件通知書で上限の有無を明示する形になりますが、慎重に行わないとトラブルに発展する可能性が高いと思われますので、難しい匙加減になるのではないかと思います。

3.無期転換申込機会・無期転換の労働条件の明示
 これは『無期転換申込権』が発生する有期契約の従業員さんの労働条件通知書に明示する内容となります。
 この『無期転換申込権』とは何かというと・・・『更新回数1回以上で5年を超えて有期契約で働いている方』は期間の定めのない雇用契約を申し込むことができ、会社は必ずこれを受けないというルールがあります。つまり1年更新の有期契約の場合、5回目の更新後(6年目)にその権利が発生し、6年目の終わりまで、もしくは終了後すぐに無期雇用の申込をすることになります。まぁ、理想としては6回目の更新の2~3か月前ぐらいに会社側からそのルールの説明を行い、従業員さんが考える時間を作りつつ、意思確認を行うのが好ましいのではないかと思います。ちなみに労働条件においては期間の定めが無期雇用になる以外は従来の労働条件でも構いませんが、せっかく5年も頑張ってくれていますので、多少、無期転換を機会に労働条件を上げてあげるのもモチベーションの上昇につながるのではないかと思います。ちなみに労働条件を下げる事は不利益変更になりますので、原則的にはできませんので、相当慎重に行う必要がありますし、働く意欲を削ぎますので、やらない方がいいでしょう。
 今回の変更点としては無期転換申込権が発生する更新のたびに(上記の1年更新の例で言うと6年目の契約更新以降、更新の度に)無期転換ができる旨とその時の労働条件を明示する必要があります。
例としては・・・

無期転換申込機会の明示
『本契約期間中に無期労働契約の申込をした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる。』
無期転換後の労働条件の明示
『無期転換後の労働条件は期間の定めを除き本契約と同様とする』
『無期転換後は労働時間を週25時間(月曜~金曜10:00~15:30・休憩30分)、時給1200円とする』

などとなります。
 これは無期転換申込権が発生した後において、有期契約を継続した場合は、有期契約締結ごとに明示する必要がありますので、それ用のひな形を1つ作っておいてもいいかもしれませんね。

 今回は労働条件通知書について書いていきました。まぁ、私自体、新卒の時にもらったのはあんまり目を通さなかった記憶が・・・これじゃ、ダメですね。これから就職する方は書面をしっかりと確認し、分からない所があれば質問をおこなう等、誤解のない働き方をすると会社とのエンゲージメントが上がり、会社も従業員さんも幸せになれるのではないでしょうか。
 最後に厚労省の変更点のまとめを置いておきますね。ここに新しい労働条件通知書のひな形も置いてありますので、参考になれば幸いです。
 しっかりと会社も従業員さんも納得する書面を作り、円滑な就労環境を作っていきたいものです。
 今回も乱筆乱文失礼しましたっ。