贈与税のルールが変わったよ①

 今年から贈与税のルールが少し変わりましたので、その辺のことを今回はその種類と概要、次回はどのように変わったかと私が思いつく注意点を書いていきたいと思います。
 贈与にはいくつか種類があり、生前贈与、死因贈与、条件付き贈与、負担付贈与、口頭による贈与、書面による贈与・・・となります。死因贈与以外はすべて生前贈与ではあるのですが、それぞれを簡単に説明すると以下の様になります。

・生前贈与
 贈与者が生存中に自分の財産を無償で他人に与える事です。まぁ、贈与と言うと一番にこれを思い浮かべるのではないでしょうか。

・死因贈与
 贈与者が亡くなった時に贈与が発動する。遺贈と似ていますが、死因贈与は生前に贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受ける人)があらかじめ贈与契約を定めることで成立します。それに対して遺贈は遺言などで勝手に受遺者に財産を与えるという意思表示を行うことで、受遺者の意思表示は関係ありません。まぁ、これは税制上は贈与税ではなく、相続税の範疇に入るかなぁ。

・条件付き贈与
 何かしらの条件を達成した時に贈与契約が発動する・・・例えば弁護士資格に合格したら1000万円贈与する・・・などです。

・負担付き贈与
 贈与者が贈与した財産に対して、贈与を受けた人が何かしらの負担なり役務なりを負う贈与です。例えば・・・贈与者の老後の世話を行う代わりに1000万円を贈与する・・・などです。

・口頭による贈与
 これは贈与の種類ではなく形式の問題ですね。いわゆる口約束です。贈与契約は口約束でも成立します。ですが、その効果発生には贈与物の所有権移動が必要になります。まぁ、揉める原因にもなりますし、税務的にも突っ込まれる可能性もありますので、あまりお勧めできるものではありません。

・書面による贈与
 これも贈与の種類じゃなく形式ですね。この場合は、書面を取り交わした時点でその効果が発生します。後々揉めない為にも、税務的に突っ込まれない為にも書面での贈与の方がよさそうですね。

 今回はこの中で節税対策としても使われている生前贈与について書いていきます。

①生前贈与の種類は?
②暦年贈与とは?
③定期贈与とは?
④相続時精算課税制度とは?

①生前贈与の種類は?

 税務上、生前贈与には暦年贈与、定期贈与、相続時精算課税制度という3つの異なる課税制度があります。また、配偶者控除、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与・住宅取得資金の贈与といった税制優遇の制度もあり、なかなか複雑な制度となっています。この中で暦年贈与、定期贈与、相続時精算課税制度は後述しますので、その他の税制優遇制度についてさらっと触れていきたいと思います(すべては書ききれていませんので、詳しく知りたい方は国税庁のHPまでお願いします。)。

・配偶者控除
 これは婚姻期間20年以上の夫婦において配偶者に住居用の財産を贈与した場合に、基礎控除を除いた2000万円までが非課税になる特例です。ですので、2110万円までは非課税で住居用不動産もしくはマイホーム取得のための資金を贈与することができます。ただし、翌年の3月15日までにその取得した住居用不動産に受贈者が実際に住み、その後も住み続ける事が条件となっています。まぁ、この言い方は偏見を感じるのでいやなのですが・・・『旦那さんの最後のプレゼント』とか言われたりします。

・教育資金の一括贈与
 直系尊属(お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん・・・など)から直系卑属(子供や孫、ひ孫・・・など)に教育資金として贈与した場合、子供や孫1人当たり1500万円まで非課税になる制度です。期限付きの制度となっており、適用期間が令和8年3月末までに延長されました。しかし・・・これは結構めんどくさい制度で、金融機関に専用の口座を開設し、出費の度に金融機関に必要書類を添えて出金を申し込む形になります。また、基本的に受贈者が30歳になった時(一定の条件では40歳)に信託財産が残っている場合、その時点での残額に対する贈与税を支払うことになります。もし、贈与者が亡くなってしまった場合は23歳未満である等の条件に該当しない場合、契約終了となり、相続税の対象となります。また、使用用途としては直接学校に支払うもの(授業料・教科書代・修学旅行の費用など)のほかに、直接学校に支払わないもの(塾代・習い事にかかる費用など)への使用もできるのですが、直接学校へ支払わないものへの金額としては500万円が限度となります。
 その他、様々なルールがありますので、なかなか・・・使いにくい制度ではないかと思います。

・結婚・子育て資金の一括贈与
 これも令和7年3月末までの時限付き措置(延長があるかもしれませんが・・・)となっています。また、教育資金の一括贈与と制度が似ており、それが結婚・子育て用の資金になった感じです。18歳以上50歳未満の直系卑属に直系尊属から結婚・子育ての為に贈与した場合、1000万円まで非課税となります。その中で結婚費用に対しては300万円が限度となっています。これも金融機関に専用の口座を開設し、出費の都度、費用を請求する形となっており、なかなか使い勝手が悪いのではないかと思われます。
この制度も教育資金の一括贈与と同様、様々な留意点がありますので、ご注意ください。

・住宅取得資金の贈与
 これは住宅を取得しようとする直系卑属に対する直系尊属からの贈与が非課税になる制度です。まぁ、子供がマイホームを建てる時に資金援助する・・・よくあるシチュエーションなのではないでしょうか。この制度も時限付きの制度となっており、よく延長されています。延長の度にちょくちょく制度がマイナーチェンジしていますので、注意が必要です。まぁ、どんどん非課税枠が減ってきていますので、昔の様に『マイホームをどんどん建てろーっ!』って考え方から変わってきてるんだろうなぁと思います。空き家問題もかなり深刻になってるし・・・。ちなみに令和6年からの制度は令和8年末までの時限制度となっています。
 受贈者の条件としては18歳以上、所得が2000万円以下となっており、取得する住宅においては床面積が40㎡(40㎡~50㎡の場合は所得1000万円以下)~240㎡で、中古住宅の場合は新耐震基準に適合したもの(建築日付が昭和57年以降であれば適合とみなします。)となっています。非課税金額としては新築の場合、断熱等性能等級5以上、かつ一次エネルギー消費量等級6以上の場合1000万円、それ以外は500万円となっています(この条件以外にも適用条件があったりします。)。
 また、これ以外にも居住要件など条件があったり、震災特例法で金額が変わったりしますので、ここでは割愛しますが、活用を考えられている方は条件が合うかどうか調べてみてもいいかもしれません。特に贈与・住宅取得・住み始めのタイミングが微妙ですので、注意してくださいね。
 この制度は割と活用されている制度だと思いますので、マイホームの援助を行いたいなぁと思ってらっしゃる方は、一度検討してみてもいいのではないかと思います。

②暦年贈与とは?

 暦年贈与とは1月1日から12月31日までの1年間で贈与された金額(受贈者視点で・・・)に対して贈与税がかかる贈与方法です。通常、生前贈与と言うとこれの事を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?年間で110万円までの基礎控除があり、非課税となりますので、相続税対策として利用されている方もいらっしゃるのではないかと思います。あくまでも受贈者目線ですので、複数の方から贈与を受けた場合、その合計額が110万円を超えたら、贈与税がかかることになります。逆に1人の贈与者の方が子供や孫など、多数の方に贈与して総額が110万円を越えたとしても、それぞれ個別で110万円以下であれば贈与税は掛からないことになります。これを生前に行う事によって相続財産を減らして、相続税対策を行うのですね。私もそれだけの財産があれば考えるのだけど・・・現実は厳しいものですよね。
 110万円を超えた場合、贈与税がかかるのですが、その金額は次の2種類があります。
 一つは特例税率と言われるもので、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の受贈者が直系尊属から贈与を受けた時に適用される税率で、一般税率より若干優遇された税率となっています。それ以外の方から贈与を受けた場合は一般税率を適用します。その税率は下の表の様になっています。

110万円を超えた金額一般税率控除額
200万円以下10%なし
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1000万円以下40%125万円
1500万円以下45%175万円
3000万円以下50%250万円
3000万円超55%400万円
                                                       一般税率
110万円を超えた金額特例税率控除額
200万円以下10%なし
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1000万円以下30%90万円
1500万円以下40%190万円
3000万円以下45%265万円
4500万円以下50%415万円
4500万円超55%640万円
                                                        特例税率

 例えば、1000万円の贈与を受けた場合、どちらの場合も基礎控除を差し引いた890万円に贈与税がかかることになりますが・・・

一般税率・・・890万円 × 40% ー 125万円 = 231万円
特例税率・・・890万円 × 30% ー  90万円 = 177万円

と・・・直系尊属からの贈与だと少しだけ贈与税が少なくなります。まぁ、実際は相続税対策で贈与を行う場合、もっと税率が低い金額を複数年にかけて贈与するのが普通だろうなぁと思われます。
 ここで贈与を暦年贈与であると税務署に正しく認識してもらうためにいくつか注意点があります。1つは贈与契約書を作り、客観的にちゃんと贈与が行われていることを証明する。これは税務調査などが入った時に確かに贈与がありましたよ~という証明を強化します。これと同時に110万円を少しだけ超える金額を贈与(例えば、111万円の贈与を行い、贈与税を1000円だけ払うなど)して、贈与税の申告を行う方もいらっしゃるみたいです。2つ目は銀行振り込み等で贈与を行い、ちゃんとお金の移動があったことを証明する。これも客観的な書類を残すのに有効だと思います。そして3つ目がその振り込まれた通帳を本人(受贈者)が使える状態、なんなら使ってしまう事です。これは財産の移行がしっかりとできているかを確認されますので、名義貸しになってないことを証明することになります。まれに受贈者の通帳を贈与者が預かり、その通帳に贈与を続けると言ったケースがあり、この場合は贈与と認められず、相続財産の対象になる可能性がありますので、注意です。
 確かに暦年贈与は大きな相続税対策となり得ますが、しっかりと注意点を意識しながら、相続税時に贈与だと認められるように行っていきましょう。

③定期贈与とは?

 定期贈与とは毎年一定金額を贈与することが決まっている贈与の事です。例えば・・・『毎年100万円を10年間贈与する』といった贈与契約を行った場合、定期贈与となります。この場合、毎年の贈与の金額は100万円で110万円の基礎控除内に収まるように思えますが、定期贈与の場合、そのような考え方はしません。初年度に『定期金に係る権利』に関する贈与を受けたものと考え、1年目に総額の1000万円に対して贈与税が課せられてしまうのです。ですので、基礎控除枠を除いた890万円に贈与税がかかります。初年度に231万円もしくは177万円の贈与税がかかってしまうことになっちゃうのです。
 ここで注意しなくてはならないことは、暦年贈与で贈与をしたいと考え・・・例えば毎年1月1日に100万円の贈与を行っていた場合、定期贈与とみなされる可能性があるという事です。ですので、複数年に渡り暦年贈与で財産の移行を行おうとする場合、多少面倒でも毎回毎回贈与契約書を作る、日付・金額をバラバラにするなど行ったほうが無難ではないかと思います。

④相続税採算課税制度とは?

 相続税精算課税とはその贈与者からの贈与は相続時に清算すると税務署に届け出る制度を言い、2500万円までは贈与税が掛からず、超えた部分には20%の贈与税が掛かるという制度です。その後、相続が発生した場合、2500万円の課税されなかった部分と20%の課税部分をまとめて清算するって感じですね。
 方法としてはその対象とする贈与の贈与税納付期間(翌年2月1日~3月15日)に『相続税精算課税選択届出書』と『戸籍謄本または戸籍抄本』を税務署に提出し、届け出る事が必要です。また、去年までは相続税精算課税制度を選んだ贈与者からの贈与があった場合は、毎年申告する必要がありました。
 そして、一度相続時精算課税を選択してしまうと暦年課税には戻れませんので、これを選ぶ時は熟考が必要です。後で『しまったっ!!』って思っても後戻りができません。
 この制度も今年から若干の変更があっており、その点に関しては次回書いていくとして・・・
 去年までのイメージとしては・・・

1年目2年目3年目4年目相続時
贈与金額1000万円1000万円1000万円1000万円4000万円
枠の残り1500万円500万円0円0円
贈与税額0円0円100万円200万円300万円
                                                   去年までの相続時精算課税のイメージ

 表の様に4年間1000万円ずつ贈与をおこなった場合、1年目・2年目は合わせて2000万円の贈与となり2500万円の範囲内ですので、贈与税は掛からない状況となっています。3年目においては500万円までは相続時精算課税の範囲内ですが、残りの500万円ははみ出してしまいます。この分に20%の税率を掛けた100万円が贈与税として課せられます。4年目はもう相続時精算課税の枠がありませんので、1000万円に20%の税率を掛けた200万円が贈与税となります。そして、相続時に贈与金額と贈与税額を合わせて相続税を計算することになります。まぁ、言うなれば相続の先渡しみたいな感じでイメージしてもいいのではないでしょうか。(計算は昨年までの制度で計算しており、同じ金額で贈与した場合の今年からの金額は次回計算します。
 ちなみにこの制度を利用できるのは贈与した年の1月1日において60歳以上の直系の父母や祖父母から18歳以上の直系卑属への贈与のみとなっていますので、誰が誰に贈与するかも問題になってきます。

 と・・・ここまで今年の変更点には触れずに、贈与税というのはどういうものかを書いてまいりました。パッと見た感じ、110万円の基礎控除の存在、相続時精算課税制度の使い勝手の悪さもあり、暦年贈与の方がよさそうな感じがしますね。まぁ、悲しいかな私には関係ない話ではあるのですが、ある程度以上の資産を持っている方で、相続税が高額になりそうな方は次回のブログ又は国税庁のホームページを見て、しっかりと確認しながら自分に合った利用を考えてもいいのではないかと思います。
 次回はこの贈与における今年の変更点、また、注意点などを書いていきたいと思います。
 乱筆乱文失礼いたしましたっ。